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なんか発掘しました。
くのいち視点?



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* 幸村18→22、政宗14→18、くのいち18

世界の中央に広がる黄海、その中心に座する蓬山がある。麒麟の生れ落ち、育つ場所である。王の資格を得ようとするものは、皆、そこへ赴かねばならなかった。麒麟が王を選ぶゆえである。
黄海に通じる門はこの世界に四つあり、それぞれ、年に一度しか開かない。今日は、その門の一つ、令乾門の開かれる日だった。
奥国で先王が斃され、奥麒が蓬山に還ったのは四年前のこと。四年の月日は、短いようで長い。先王の失道により混乱を極めた国が荒れ果てるには、十分すぎる時間だ。無論、その四年の間に、多くの人材が王たらんと昇山を試みた。しかし、何れも王たる資格を有さず、失敗に終わっていた。
最初に大器を持つものたちが失敗に終わると、次に昇山を試みるのは、彼らの失敗に背を押された山っ気のあるものたちである。先王に目を付けられることもなく、同ずることもなかった幸村の主君が昇山を試みたのは、そういう流れからだった。
今回、幸村が昇山の面子に選ばれたのは、誰より腕が立つという理由の他に、彼の命を惜しむものが少ないからだろう。胎果である幸村には、家族や故郷がない分、しがらみが少ない。幸村が死んだところで、弁償すべき相手もいない。実際、この昇山に選ばれた者たちは、天涯孤独の者ばかりだった。
その選択に対して、幸村も思うところがないわけではない。だが、自分が胎果であり、斐国の庇護をなくした今、天涯孤独の身であることは事実。何より、幸村は奥麒に興味があった。四年前の先王斃死の折、今は亡き斐国王信玄の配下として参戦した幸村は奥麒を目にしていた。大半を毛布に包まれていたため、しかと目にしたわけではないが、隣国の知将兼続によって運ばれる姿は、死に瀕するもののそれだった。
だから、こんなにも気になる。
この四年間、幸村の深層意識から奥麒の姿が消えたことはなかった。それならばいっそ、会いに行ってしまおうか。きっと、元気な姿を見れば、この思いも消えるはず。幸村が昇山に同行することを決めたのは、そのような判断も手伝ってのことだった。
騎獣の手綱を引いて歩く幸村のところへ、娘が駆けて来た。氏素性はわからない。ただ、くのいち、と呼ばれている。幸村がこの世界へ流れ着いたとき、世話をしてくれた物好きだ。長い月日、見目が変わらないことを考慮に入れると、何処かで仙籍を得ているのかもしれない。くのいちはどこでその情報を知りえたのか、今回の幸村の昇山を聞き及んだと見えて、物好きなことに同行を申し出たのだった。無論、幸村の主は難色を示した。しかし、くのいちの黄海の知識を目の当たりにして、その難色も消えたようだ。今ではすっかり、くのいちに頼り切っている。
くのいちの斜め後ろに、辟易した様子で付いてくる青年がいる。年の頃、十八といったところか。四年前の幸村と同い年の勘定になるその青年は、名を、政宗といった。四年前、奥麒が王を迎えるため蓬山が開放されてから、昇山の面子の中に見受けられる青年だ。政宗は昇山の一行にあるというのに、王や麒麟に否定的な発言をする傾向にあった。特に、後者に関しては、獣にすぎないと言って憚らない。当然、登極を目指す者たちには快く思われていないのだが、黄海に詳しい政宗を味方に付けた方が安全であることに変わりはない。昇山する者たちには重宝されている。剛氏ではないか、というのが周囲の見解だが、剛氏たちは、政宗のようなものは見たこともないという。謎の人物だ。ただ、態度の節々に、育ちの良さや命ずることに慣れた者特有の傲慢さが見て取れる。何れにせよ、一角の人物であろう。幸村は政宗のことを尊敬していた。
「幸村様~!危険、あっりませ~ん☆」
そう言って、くのいちが指折り報告しだした。
「いつもは氾濫してる川も、雨が降ってないから問題ないし~。妖魔も見当たりません~。まるで、何か他の…もっと強大な妖魔に怯えてるみたい。それから、…うーん。特に列挙するようなこともないです。」
追いついた政宗が、呆れたように溜め息をこぼした。
「落ち着きのないやつじゃ。しかし、こやつの言うとおり、特筆すべきことはない。さっさと進むんじゃな。」
「…くのいちが言う、強大な妖魔とは?」
「馬鹿馬鹿しい。かような存在がおれば、黄朱お得意の危険避けの目印があるはずであろう。それとも、この一行に、人に化けた妖魔でもおると申すのか?」
政宗の隻眼にからかうような色が浮かんだ。懸念を馬鹿にされて、幸村が苦笑する。確かに、政宗の言うとおりなのだ。昇山の防人である剛氏たちの説明によれば、手に負えないほど危険な妖魔がいる箇所には、迂回するよう目印をつけるという。それをみすみす見逃すような剛氏はいない。
この一行に人妖が紛れ込んでいる、というのもいまいち考えにくい。確かに、人と同等の知能を持ち、人型に転変することの出来る妖魔も存在するという。だが、その妖魔がわざわざ昇山に同行する理由がわからない。
「佐助は、鵬翼に乗ったんじゃないかって言いますけど。」
佐助、とは、他の昇山の者に雇われた剛氏である。どうやら、くのいちの知り合いらしい。
天の采配、とでも言うのだろうか。昇山する者の中に王がいる場合、危険が激減する。これを、鵬翼に乗る、という。どうやら、佐助は一行の中に王がいると考えているらしい。
先の説より、よほど、納得出来る説である。佐助と密談をしに立ち去るくのいちを見送った後、はたして誰が王なのであろう、と旅の一行を見渡す幸村の隣で、政宗が嘯いた。
「しかし、…解せん。何ゆえ、こやつらは麒麟を求める。所詮、獣ではないか。」
政宗はそう言うと鼻を鳴らした。銅(あかがね)の髪に陽光が反射して、金色のようにも見える。まるで、麒麟の毛並みのようだ。しかし、幸村は信玄の下にいたとき、本物の麒麟の毛並みを見ている。高坂と呼ばれる麒麟の毛は、冬の太陽のような淡い金色だった。
信玄が存命の頃は、幸せだった。仮初とはいえ、還る場所があった。過去を偲ぶ幸村の眼前で、政宗は眉間にしわを寄せて呟いた。
「一見して人のようじゃが、内実は獣でしかない。だから、人の心がわからない。主への愛にかぶいて、国を傾ける。そのような獣を奉るなぞ、…馬鹿げておる。」
胸の奥から吐き出された台詞は、皮肉と苦渋に満ちていた。一体何が政宗にそう思わせたのだろう。先王の失道で家族や故郷を失ったのかもしれないが、麒麟を厭う理由には足らない気がする。王や麒麟の治めない黄海の民、黄朱の中には、王や麒麟は必ずしも必要ではないと公言するものもある。佐助がそうであるし、他には、くのいちもそうだ。しかし、政宗の態度はそれとは異なる気がする。何かがしっくりこない。政宗の苦悩の浮かぶ隻眼を見るたび、幸村はそう思う。何かがしっくりこないのだが、それが何なのか判然としない。
「私は胎果ゆえ、詳しくは知りませんが。」
一言断ってから、幸村は続けた。
「麒麟は、仁を体現したものであると聞きます。であるならば、人以上に「ひと」の心を解するものが麒麟なのではないでしょうか。」
そう口にする幸村へ、政宗が物思う視線を向ける。その品定めするような目に気圧されて、幸村は困ったように笑みを浮かべた。内心、くのいちがいなくて良かったと思った。もしかしたら、目敏いくのいちのことだ。もうばれているのかもしれない。
幸村の生まれ育った世界と違い、この世界では、子は里木に生る。籍を入れねば子は生らないため、子を望む男女は籍を入れる。そうでなければ、籍は入れなくとも良い。愛欲と出産が、必ずしも結びつかない仕組みがあるためか、同性同士の恋慕もあちらの世界ほど厭われる傾向にない。しかし、だからといって、自分がその一人になるつもりなど、幸村には毛頭なかったのだが、予定と現実は違う、ということだろうか。
何ゆえ、政宗は、己にこのような眼差しを向けるのか。何ゆえ、麒麟を厭い憎むのか。それなのに何ゆえ、昇山の手助けをしているのか。自惚れていると嗤われるかもしれないが、もし許されるならば理解したいと思った。



くのいちは、黄朱の民である。黄海にある里木から生れ落ちた、何処の国にも属さない、黄海の正真正銘の黄朱だ。束の間の存在といえど、主君など望まなかったくのいちは、剛氏のように、昇山するものを助けて生計を立てるわけでもない。何の因果か、斐国先王信玄に気に入られ、仙籍など得てしまったが、それも、貰えるならば貰っておこうと思っただけのことで、仕える気など毛頭なかった。実際、この百五十年、信玄からの催促もなく、仕えないまま逝かれてしまった。
そのくのいちが、はじめて、仕えても良いと思ったのが幸村だった。否、仕えても良いと思ったのではない。進んで、仕えたいと望んだ。だから、今回の昇山も、幸村が登極しないだろうかと思って、助けることにした。そうでなくとも、昇山は危険を極める。馬鹿殿の手伝いで幸村が死んでしまっては、つまらない。
くのいちには、幸村こそが登極を果たすという確信があった。それは、昇山の危険が異様に少ないことで、疑う余地のないものになった。王候補のいる昇山は、いない場合に比べ、危険の少ないものになる。それは、黄朱の中では周知の事実だ。この四年間、どの昇山も例年に比べ、著しく危険が少なかったとはいえ、道程が半分過ぎた時点で死者が皆無とあっては、疑うべくもないだろう。この面子には、王がいる。そして、それは、幸村に違いない。
ところで、くのいちは、政宗の髪の銅(あかがね)に見覚えがあった。その色を何処で見たのか、くのいちはいっかな思い出せなかった。いかにくのいちの記憶力が優れているとはいえ、百五十年も生きていれば、こぼれおちるものもある。何より、この世界の民は、海客たちの住まう世界と異なり、様々な目色や髪色をしている。記憶の探索は困難を極めた。
それが何であったのか思い出したのは、偶然の賜物だった。色で思い出したのではない。くのいちは見てしまったのだ。二人で、一行の歩む道が安全であるか、一足先に確認しに来ている最中のことだった。
奥国に住まう麒麟は、珍しい赤麒麟。銅(あかがね)の毛並みを持ち、人型にあっては、少年の姿をしている。
麒麟が昇山に同行するはずがない、という先入観からだろうか。それとも、王を亡くして、再び成長し始めた見目ゆえだろうか。昇山の目的は彼こそであろうに、それを失念しているなんて、奥国の民はどうかしている。
木の後ろで耳をそばだてるくのいちに気づかぬ様子で、政宗は妖魔と話している。鸚鵡の形をした妖魔は伝令用のものなのか、愛らしい少女の声で話した。
『政宗、ほんま、大丈夫なん?無理してへん?』
「大丈夫じゃと言っておろう。そもそも、この定時の報告も必要ないわ。馬鹿め。」
『そう言わんといて!うち、心配で…毎日政宗の不満いっぱいのいつもの声を聞いて、ようやく、迎えに行きたいのをこらえとるんやから。』
思わず、くのいちは笑い声を漏らしそうになった。確かに、不機嫌そうな声でないと、何かあったのかと心配になるほど、政宗はそういう性質だった。何に対しても、不満げなのだ。麒麟は仁の生き物であるというのが世間一般の認識なので、くのいちたちが政宗こそ麒麟だと気づかなかったのも致し方ないことだった。
相手の言葉に、政宗は閉口した。呆れたのかもしれないし、言い負かされたのかもしれない。そんでもって、ガラシャちゃんにたしなめられてな、と少女の声が続く。少女と政宗の掛け合いに、くのいちは木陰で肩を震わせていた。

飛び去る鸚鵡を見送った政宗が、疲れたように嘆息してから、くのいちの潜む木の方へ向かってくる。あの偉そうな態度を崩さない政宗が、少女に振り回されて疲労する姿など、滅多に見られるものではない。それとも、それこそが政宗の常態なのだろうか。くのいちにはわからなかったが、だからこそ、おかしかった。あの居丈高な政宗が、この旅の目的である奥国の麒麟が、小娘に振り回されているのだ。
眦に滲んだ涙を拭い取り、さてどうしたものか、と、くのいちは逡巡した。この場合、政宗を見逃した方が良いのか、良くないのか。麒麟の機嫌を損ねては、くのいちの仕える幸村が王になれないかもしれない。
しかし、麒麟は王を選ぶことを、くのいちは知っていた。好むと好まざると、麒麟は王を選ばざるを得ない。王だけが、麒麟を惹き付け、選ばせる。それが先王を斃した一味で、麒麟の憎悪の対象であっても、変わりない。その負の感情を捻じ伏せるまでに、麒麟の王に対する思慕は深い。
本能なのだ。
「ああいう使令がいると便利だよね、政宗ちん。」
木の陰に座り込み、にやにや笑いながら話しかけてきたくのいちに、政宗は顔色一つ変えるでもなく、吐いて捨てた。
「何の話かわからぬ。」
まるで、最初からくのいちがここに居たことを知っていたような顔だ。だが、くのいちは政宗が神経質そうに指輪を撫でているのを見て取り、動揺していることを察した。
「あたしも、さっきのやり取りの意味がわからないほど馬鹿でもないんだよねん。それに。」
政宗が麒麟だとわかったからこそ、思い出される記憶もある。
「二十一年前。珠国で新王が立つ直前に会ったと思うんだけど。政宗ちんは、覚えてない?」
あのとき、くのいちは政宗のことを、王を探すため下山した珠麟を迎えに来た従者と勘違いしたのだ。何処で見た毛色だったのか、思い出してすっきりするくのいちに対し、政宗は渋面になった。
「何が言いたい。要求は何じゃ。」
「べっつに~?」
にやにや笑うくのいちの相手に厭いたのか、政宗が顔を背けた。一瞬の沈黙。政宗は物思うようにくのいちを一瞥した。
「…貴様は、わしの嫌いだった女に似ておる。あれも、好いた男のために生きるような女であった。」
くのいちは、驚きに目を瞬かせた。確かに、くのいちは、幸村のことを好いている。しかし、政宗のように言うと、好きの意味が違うものに聞こえる。くのいちは、そういう意味で幸村のことを見たことなどない。恋を知らぬわけではない。実際、他国に、恋しい男の一人くらいいる。
それに、と、くのいちは戸惑いに眉をひそめた。幸村の想い人は、政宗だ。清廉な生き物たる麒麟が、そういう行為をすることが可能なのか、くのいちにはわからない。だが、事実は事実だ。その間に割り込む気も、割り込める気も、くのいちにはない。
いつになく困った様子のくのいちを、政宗は呆れたように軽く叩いた。いつもどおりの不満げな声で告げる。
「行くぞ。いつまでも貴様なぞに構ってられぬ。わしには為すべきことがあるのじゃ。」
そう言い置いて歩き出した政宗の後を、慌てて、くのいちは追いかけた。

鸚鵡の形をした妖魔や声の主である少女、蓬山のことをくのいちが一方的に尋ね、政宗がだんまりを決め込んで応えないまま歩き続けていると、昇山の一行が見えてきた。合流すれば、政宗に、このような質問を投げかけるわけにもいかなくなる。
「そいえば、あたしに似てるって人、どうしたの?」
くのいちにとっては、何気ない質問だった。どうせ、これまで同様答えてもらえるはずなどない、という思いもあった。
だが、政宗は暫しの沈黙の末、答えた。
「死んだ。好いた男のために、な。」
くのいちは狐につままれたような思いで、歩を進める政宗の背を見送った。

幸村は、くのいちと政宗の様子に訝った。二人は、一行の歩む道が安全であるか、一足先に確認しに行っていたのだ。しかし、くのいちは狐につままれたような顔だし、政宗に至っては感情そのものが殺ぎ取られている。
「どうした。何かあったのか?」
「ううん、そういうんじゃないんですけど~。」
ちら、と政宗に視線を移したくのいちは、政宗から放たれる無言の圧力に屈したのか、少し居住まいを正した。
「何でも、ない、です。」
そして、納得しかねるように溜め息をこぼした。
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