雑記および拍手にてコメントいただいた方へのご返信用です。
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シーツの海に濃紺の髪が広がっている。穿つたびのけぞり反り返る咽喉仏へ舌を這わせながら、マニゴルドは一心に頂点を目指した。一心に、頂点を目指そうとした。
だが、現実には叶わず、マニゴルドの脳裏をさまざまな考えが過ぎった。
白くなるほど力のこもる手が、シーツではなくこの背を掻き抱いたらどれだけ良いだろう。みみずばれを回避できたことを祝う気には、到底、なれなかった。
こんなはずではなかった。
アルバフィカとの触発がきっかけでもたげた後悔は、当初こそおぼろげな形だったが、次第に明確なものになりつつあった。
自分はこの世間知らずな蠍をからかってやるつもりで、手を出したはずだった。誰からも天真爛漫と謳われ慕われる黄金聖闘士も、一皮めくれば、自分と大差ない薄汚れた大人だということを知らしめてやるつもりだった。
シニカルなブラックジョークに過ぎないはずのお遊びの結末は、マニゴルドが予期していたほど、甘くはなかった。
オアソビ。
それは単なる錯誤、願望だったのか。
きつく引き締まった中が収縮を繰り返しながら弛緩していく。マニゴルドが力を失ったモノを抜くのに合わせて、カルディアは長く細い嘆息をこぼした。
「これが最後かもしれねえな。」
もうすぐ、聖戦がはじまる。どさりと隣へ寝そべりながら言うと、カルディアはけだるげに方を竦めてみせた。
「まあ、そうかもな。」
最初で最後に、本心をさらけ出して、愛していると伝えてみようか。
安っぽい娼婦のように許して来なかった唇へ、口付けてみようか。
マニゴルドの胸中など露知らず、カルディアは快活に笑ってみせた。
「でも、どういうわけか、これが最後って気がしねえんだよ。」
シャワーを浴びて戻ってくると、ベッドの上ではカルディアが足を振りながら雑誌を読んでいた。ずいぶん真剣に読んでいる。マニゴルドは話しかけることもためらわれて、カルディアのために持って来たペリエを飲んだ。
雑誌は、先日、マニゴルドのインタビューが掲載されたものだ。休日はシープメドウで過ごすというくだりも掲載されている。
少なくとも、しわくちゃのシーツの上で、汗も流さずに読むようなものではないと思う。
そこで、マニゴルドは、当然のものとして提示されたために見落としていた事実に気づき、ペリエを放り出すとカルディアへ覆いかぶさった。
「おい、何だよ。重い。お前、あれだけやってまだヤり足りねえの?」
窓の外のキャンバスはとっくに黒く塗りつぶされている。あれだけ睦み合ったのだ。
「もう頼まれたって出ねえよ。すっからかんだ。」
「年なんじゃねえの?」
「うるせえ。」
マニゴルドは身じろぐカルディアの身体をひっくり返し、正面を向かせた。
つんと上向いた乳首は、さんざんなぶられたせいでぽってり腫れている。白い柔肌はキスマークで蹂躙され、あからさますぎるほど、事後を知らしめていた。
「ひっでえ身体。」
「うるせえ!」
所有欲を満たされてにやにやするマニゴルドの腕を、カルディアが叩く。パンチ一発で済むなら安いものだ。
先ほど、もう出ないと宣言した舌の根も乾かぬうちにもたげ始めた欲望にひとまずマテを命じ、マニゴルドはカルディアの顔を覗き込んだ。
「お前、どこに住んでんの?近所か?」
カルディアが英語を話している事実から察するに、英語圏であることは間違いない。近所であれば話は早いが、近所でなければ、作家という在宅ワークを生かして、カルディアの近所へ引っ越すだけだ。
まさか、イギリスということはないだろう。
いや、イギリスでも良かった。もう、二度と、手放すつもりはないのだから。
もとより、掌中に収まったつもりなどないと鼻で笑われてしまうかもしれないが。
真剣なマニゴルドの視線の先で、カルディアがいぶかしげに小首を傾げた。
「え、ギリシャだけど。」
これには素で驚いた。マニゴルドは飛びあがって、上半身を起こしたカルディアの両肩を掴んだ。
「はあ?!ギリシャ?!何で!」
「何でって、むしろそれこそ何でだよ。止めろ、揺さぶんな!頭がくらくらする!」
煙たそうに振り払われたがそれでも気にせず、マニゴルドはぶつぶつ文句を呟いているカルディアを凝視していた。
「何で、お前、ギリシャなんだよ!」
「わけわかんねえこと言うなよ!ギリシャなんだから仕方ないだろ!だいたい、ギリシャじゃない理由はなんだよ!」
「だって、お前、ギリシャ在住なのに何でここにいて、しかも、英語が喋れるんだよ!」
カルディアの眉間に深いしわが出来た。眼には怒りがくすぶっている。カルディアは地を這うような声でマニゴルドを問い質した。
「…何だよ、来たら悪いかよ。」
「そうじゃねえけど、だって。」
本日二度目の拳が飛んだ。これだから癇癪持ちは。痛む頬を抑え、文句を言う前に、首まで赤くしたカルディアが叫んだ。
「だってもくそもねえよ!お前に会いたいから覚えたに決まってんだろうが、馬鹿!」
他人事だったら、笑っていただろう。
成人した男がこんな小娘のなりして、同じく良い年した男相手に喚いているのだ。
「だって、お前、あんなに他所の言葉覚えんの嫌がってたじゃねえか。」
その上、この台詞。自分のことながら、情けなくて笑えてくる。
呆気に取られて目を丸くしているマニゴルドに、カルディアはいたく腹を立てた様子だったが、しばらくして、マニゴルドが声にならないくらい感動しているのだと気づくと、照れ隠しのつもりか、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「だから、あのとき、これが最後って気がしねえって言っただろ。」
それから、改まった様子で、カルディアが白い歯を見せて無邪気に笑ってみせた。
「この俺が、最後にするわけねえじゃん。」
国籍も違う、言語も違う。そもそも、相手がどこにいるのかすらわからない。
そんな状況で、こんな風に笑えるカルディアの神経が信じられなかった。
だが、そのとき、マニゴルドはカルディアの指先が心もとなくシーツを握り締めているのに気づいてしまった。カルディアも、不安がなかったわけではないのだ。だから、あんな強硬に、セックスを求めたのかもしれない。
嬉しさと恥ずかしさに、頬が熱くなった。カルディアの言葉は、単純な愛の台詞以上にマニゴルドの胸を打った。
マニゴルドはカルディアを勢いよく押し倒すと、ティーンエイジャー顔負けのがむしゃらさで唇を押しつけた。はじめてのキスはどこか苦く、それ以上に甘かった。
朝になったら、話したいことが沢山あった。これまでの後悔、再会の喜び、愛していること。
だが、それも、朝になったら、の話だ。
マニゴルドは愛するカルディアが隣にある幸せを噛みしめ、背中へ回された手を痛烈に意識しながら、長い夜の幕開けを祝うのだった。
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