雑記および拍手にてコメントいただいた方へのご返信用です。
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書き損じ…?
なぜ暗くなるし、と、頭を抱えております。
もしかしたら、続くかもしれません。
*
*
*
ひと夏の恋 (さなだて)
ひとつだけあの世に持っていけるとしたら、なにを持っていくか。
孫市の問いかけに、本陣で銃の手入れに余念のない政宗はわずかに眉をひそめた。戦を控えているというのに、あまりにも、孫市がひょうひょうとしていたからだ。政宗は雇い入れたばかりの眼前の男が、己を裏切って徳川につくはずはないと重々承知していたものの、やはり、なにを考えているのかわからず、不安に思う面はあった。
手を休めた政宗の視線を真っ向から受け止めた孫市は、すがめられた独眼にも臆することなく、にっと人好きのする笑みを浮かべた。口にこそ出さないが、どうやら、孫市は、本心から政宗が冥途になにを持ちこむつもりなのか、気にかかっているらしく、おかしがる目の奥は表面どおり笑ってはいなかった。
もしかすると、雑賀として味方につく際、必ず雇い主に質す問いなのかもしれない。あるいは――。
政宗は答える気になれず口を噤むと、再び、銃身へ目を落とした。
しばらく孫市は政宗を見下ろしていたが、答えるつもりがないことを見抜くと、小さく嘆息をこぼして、雑賀衆の方へ去っていった。
目敏い男だ。ひとが見つからぬよう苦心したというのに、あの男は、あっさり見つけてしまった。
政宗は自嘲の笑みを浮かべ、手首に結びつけた六問銭を頭上に掲げた。長年、戦場で携えられていたらしい六問銭は、世辞にもきれいとは言いかねたが、大坂で政宗の心を捉えて離さなかった持ち主のように、ひどく人心を引きつけるあやしい光があった。
本当は、孫市にひとこと言って安心させてやれば良いのだと、政宗にもわかっていた。しかし、政宗は、どうしてもその気になれなかった。六問銭、と答えただけでは、孫市は納得しないだろう。さきほどのように、端から死ぬつもりなのか、と無駄な詮索をされるのも億劫だった。
政宗は決心を鈍らせたわけでも、世を儚んだわけでもない。売名や自己満足のためだけに、生を投げ打つつもりもなかった。政宗は伊達の当主なのだ。あのものとは違い、泥をすすってでも生きる義務があった。そこを、なにものにも縛られることのない雑賀の長は見当違いしていた。
政宗が死ぬ?政宗を知るものは、口を揃えて否定するに違いない。
にもかかわらず、政宗が六問銭を携帯する理由は、ただ、ひとつだけ。政宗は、肝心の今際に六問銭を落としていった男へ六問銭を届けてやりたかったのだ。あの男の生きざまに触れたことで、自分ははるか高みを目指すことができたのだと、礼を伝えたかった。
政宗は溜め息をこぼすと、天幕の向こうに広がるどしゃぶりの空を睨みつけた。
機は熟した。
今日、独眼竜は空へ昇る。
なぜ暗くなるし、と、頭を抱えております。
もしかしたら、続くかもしれません。
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ひと夏の恋 (さなだて)
ひとつだけあの世に持っていけるとしたら、なにを持っていくか。
孫市の問いかけに、本陣で銃の手入れに余念のない政宗はわずかに眉をひそめた。戦を控えているというのに、あまりにも、孫市がひょうひょうとしていたからだ。政宗は雇い入れたばかりの眼前の男が、己を裏切って徳川につくはずはないと重々承知していたものの、やはり、なにを考えているのかわからず、不安に思う面はあった。
手を休めた政宗の視線を真っ向から受け止めた孫市は、すがめられた独眼にも臆することなく、にっと人好きのする笑みを浮かべた。口にこそ出さないが、どうやら、孫市は、本心から政宗が冥途になにを持ちこむつもりなのか、気にかかっているらしく、おかしがる目の奥は表面どおり笑ってはいなかった。
もしかすると、雑賀として味方につく際、必ず雇い主に質す問いなのかもしれない。あるいは――。
政宗は答える気になれず口を噤むと、再び、銃身へ目を落とした。
しばらく孫市は政宗を見下ろしていたが、答えるつもりがないことを見抜くと、小さく嘆息をこぼして、雑賀衆の方へ去っていった。
目敏い男だ。ひとが見つからぬよう苦心したというのに、あの男は、あっさり見つけてしまった。
政宗は自嘲の笑みを浮かべ、手首に結びつけた六問銭を頭上に掲げた。長年、戦場で携えられていたらしい六問銭は、世辞にもきれいとは言いかねたが、大坂で政宗の心を捉えて離さなかった持ち主のように、ひどく人心を引きつけるあやしい光があった。
本当は、孫市にひとこと言って安心させてやれば良いのだと、政宗にもわかっていた。しかし、政宗は、どうしてもその気になれなかった。六問銭、と答えただけでは、孫市は納得しないだろう。さきほどのように、端から死ぬつもりなのか、と無駄な詮索をされるのも億劫だった。
政宗は決心を鈍らせたわけでも、世を儚んだわけでもない。売名や自己満足のためだけに、生を投げ打つつもりもなかった。政宗は伊達の当主なのだ。あのものとは違い、泥をすすってでも生きる義務があった。そこを、なにものにも縛られることのない雑賀の長は見当違いしていた。
政宗が死ぬ?政宗を知るものは、口を揃えて否定するに違いない。
にもかかわらず、政宗が六問銭を携帯する理由は、ただ、ひとつだけ。政宗は、肝心の今際に六問銭を落としていった男へ六問銭を届けてやりたかったのだ。あの男の生きざまに触れたことで、自分ははるか高みを目指すことができたのだと、礼を伝えたかった。
政宗は溜め息をこぼすと、天幕の向こうに広がるどしゃぶりの空を睨みつけた。
機は熟した。
今日、独眼竜は空へ昇る。
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