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書きたいだけ、書けるとこだけ、書いていきたいです。
以前、ちょっと書いた「シジフォス×カルディア」物語のショタ編です。
たぶん、いつものパターンで途中で力尽きます。
根気のなさに定評のある管理人ですすいません。




クレストに拾われたカルディアが連れて来られたのは、ギリシャ国内に位置する「聖域」と呼ばれる場所だった。
カルディアは心臓の病のために療養所へ長いこと収容されていたが、もともとは名のある貴族の子弟である。いずれ祖国に仕えるため、ギリシャの歴史や地理をそれなりに学ばされていた。それにもかかわらず「聖域」という響きに聞き覚えがないのは、ここが本当に秘されるべき場所だからかもしれなかった。
とはいえ、単にカルディアの知識が不足していたせいかもしれない。
真偽のほどはわからない。
聖域に入ってすぐ目に入ったのは、闘技場で鍛錬を積む少年少女の姿だった。年の頃は、カルディアとそう変わらないだろう。
拾われた場所から聖域に辿り着くまでの道中でクレストが勝手にした説明によれば、この場所ではアテナに仕える聖闘士が育成され、いずれ来る聖戦のために技を磨いているとのことだったので、聖闘士候補生に違いない。
内心、カルディアは自由に体を動かす彼らに嫉妬を覚えた。彼らは健やかな身体を持ち、誰よりも自由に近い立場にありながら、あえて束縛される道を選んだのだ。
カルディアには到底考えられない人生だった。
何とも悠長な話ではないか。
人間はいつ死ぬともわからない、明日死ぬかもしれない。
だのに、聖域に暮らす人間たちは、自分が生きている間に来るかどうかわかりもしない戯言を真に受け、実在するかどうか知れない女神を信じて、修行に励んでいるのである。
無様なことこの上なかった。
候補生たちに侮蔑の視線を向けるカルディアへ、クレストは老年を迎えたものだけが見せる諦観まじりの眼に微かに面白がる色を湛え、一瞥投げかけた。
「良いか。お前はこれから、蠍座の黄金聖闘士候補としてここで暮らすのだ。」
「ふざけんなよ。どうして俺がそんなもんにならなきゃなんないんだ。」
返事をせず、クレストは乾いた笑い声を立てた。口先ではどう言おうと、カルディアが本心ではクレストに感謝していることを知っている余裕の笑みだった。枯れ木を思わせる手はしっかりとカルディアの手首を掴んでいた。
カルディアは唇を噛み締めた。
クレストは怪しい術でカルディアから心臓の痛みを取り除いてくれていた。今は不安定で以前以上の激痛に喘ぐこともあるが、いずれはこの痛みも治まるという。
延命の処理を施してくれたことに関しては、カルディアはクレストに感謝していた。それは間違いない。
しかし、カルディアが療養所を飛び出したのは、ベッドから聖域に拘束場所を移すためではない。
今はまだ駄目だが、体調が安定したらこんな場所さっさとおさらばしてやろう。
何度も、そんな思いが胸中に浮かんでは消えた。
だが、本当にクレストが言うように、血の繋がった家族からも見放された自分が役に立てる場所が存在するならば――いや、まだ時機尚早だ。結論を出すのは、体調が安定してからで良いだろう。


十二宮の入口に位置する白羊宮から長く続く階段の先には、神殿のようなものがあった。聖域内に足を踏み入れるまでまったく目につかなかったが、雲のせいだろう。カルディアはそう思うことにした。結界のせいだなどという眉唾な話を信じる気にはなれなかった。
擦り切れたマントを羽織り浮浪者のようななりをしていたクレストは、自分で言うように、ここではそれなりの地位を築いているらしい。齢500年を超すというのも、この不条理な世界に神々が実在するというのも、あながち、嘘ではないのかもしれない。そう信じてしまいそうになるくらい、クレストに対する人々の接し方は丁重を極め、神官や聖闘士たちはこぞって頭を垂れた。
長い階段を上って辿り着いた神殿で、カルディアは教皇と呼ばれる老人に引きあわされた。教皇は憂いを帯びた眼差しでカルディアを観察すると、当の本人など目に入らない様子で、クレストとカルディアについて話し始めた。
「クレストよ、ずいぶん思い切ったことをされたものだな。」
「そう思うか?」
「確かに、その者の小宇宙が衝動的で稀な輝きを放っていることは認めよう。いずれは、蠍座の黄金聖闘士にすらなりうるかもしれない。だが、アテナの秘術を施したとはいえ、その者の心臓が不安定な事実に変わりはない。アテナ直々の秘術ではないのだから、当然だ。小宇宙の練習をしようものならば、その者の生命の灯は途端に燃え尽きてしまうだろう。」
そう甘い話が転がっているとは思っていなかったが、やはり、制限付きの延命処理であったらしい。カルディアは何食わぬ顔のクレストを一瞥してから、渋面を浮かべている教皇を見やった。
「それじゃあ、俺はどうすれば良いんだ?」
ようやく、注目がカルディアに集まった。カルディアは言いたいことを全てぶちまけた。
「あんたたちは好き勝手ばっか言っていて、俺の気持ちなんざお構いなしだ。大体、俺がここに留まると思っているのか?体調が良くなったらすぐにでも、俺はここを出ていくつもりだ。」
もしかするとここならば自分が必要されるかもしれないという薄い期待を抱いていただけに、内心では、やはり自分が必要とされる場所などないのだという失望を感じたが、意地でもそんな素振りを見せず、傲岸に言いきったカルディアへ、教皇の隣で重く口を閉ざしていた青年がようやく口を開いた。
「…教皇の御前だぞ。口を慎め、子ども。」
生真面目すぎる眼には、苛立ちが覗いている。
その身に纏われた黄金の鎧から、噂の黄金聖闘士らしいと見当はついたものの、どうでも良かった。聖域ではどれほど尊敬されるべき地位なのかは知らないが、カルディアが頭を垂れなければならない理由などない。
「俺のことが話題になってるのに、だんまりを決め込めっていうのか?ふざけんな!俺のことは俺が決める!」
無謀にも黄金聖闘士へ噛みついてみせるカルディアに、教皇は呆れ交じりの笑みを湛えた。
「どうもこの子どもは、その身にまとう小宇宙以上に衝動的な性質らしいな。これでは、いつ小宇宙を暴走させて落命するともわからない。そもそも、修行すらままならないだろうに。」
「そうならないようにするのが、お前の仕事ではないのか?」
「…痛いところを突く。」
ここでは、教皇よりもクレストの方が地位は上らしい。
教皇はクレストへ苦笑いを返すと、憤慨のあまり今にも踵を返して教皇宮を飛び出しそうなカルディアへ視線を転じた。
「子どもよ、お前の名は?」
「…カルディア。」
素直に答えたのは、その視線が思いの外強かったからだ。本能的に身を竦めるカルディアへ、教皇は一転して柔和な笑みを浮かべてみせた。
「ではカルディアよ、お前を蠍座の黄金聖闘士候補として歓迎しよう。シジフォス、お前はカルディアの世話をするように。」
反論しても、良かった。
反論すべきだったのかもしれない。
だが、何となく躊躇われているうちに、話はとんとん拍子に進んでいた。シジフォスと呼ばれた黄金聖闘士は一瞬ためらうように眉をひそめたものの、教皇の命令は絶対なのか、反論することもなく、床に片膝をついて受領した。
「嫌なら嫌だって言えば良いだろ。」
カルディアが小声で悪態を吐くと、刺すような視線が飛んで来た。睨みつけられたカルディアは、シジフォスを負けじと睨み返した。
このときのカルディアは知らなかったが、次代の教皇候補に挙げられるほど人格者で知られるシジフォスがそのように感情を露わにするなど――ましてや自戒してしかるべき教皇の面前で不機嫌をあからさまにするなど、滅多にないことだったという。
もしかすると、長く閉鎖され続けたために停滞気味の聖域にも、これで新しい風が吹くかもしれない。
クレストの連れてきた子どもに、教皇セージは一抹の希望を感じた。

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