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タイトルどおりです。
つづいています。



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夜明けが近い。
いつものくせで目覚めたミロはベッドから抜け出した。一瞬、カノンはミロの腕を掴んで引き止めようとしたが、秘めてしかるべき恋情よりも恒常の友情を優先すべきだと判断し、伸ばしかけた腕を引っ込める。
ミロは、カノンが腕を伸ばしかけた気配を察したが、脱ぎ散らかした服を身にまとう。振り返るつもりはなかった。当初の好奇心は満たされた「はず」で、「当初の予定どおり」もう二度とこうして会うつもりはなかったから。
それでも、ミロは、扉を開けてカノンに背を向ける瞬間、カノンが二度と一夜限りの「自分」を見ることがないように、自分も今夜のカノンをもう一度見る機会はないのだと気づき、振り返ってしまった。
カノンは寝ているふりをしている。まるで、息をひそめて寝ていれば、ミロが帰ってくるかもしれないと思ってでもいるように。
逆光でミロの顔はわからない。
「じゃあな。」
扉が閉まる。差し込んでいた光が途切れる。
ぽつりとこぼされた言葉に、カノンはしばらく扉を見つめていた。それから、瞼を閉じ、ミロの唇のなごりを思い返しながら唇に指を当て、小さく呟く。
「ああ、またな。」


ホテルから足早に遠ざかるミロは、行為の最中、カノンの眼差しがいつも自分に向けられるモノと同じだったような想いにかられ、心中穏やかではない。そんなはず、あるわけがない。今の自分は女で、いつもの自分とは違う。見てくれだけは。
だが、あれだけの短い時間では互いの本質を知ることすらままならない。カノンには、見てくれだけしか判断する材料はなかったはずだ。ミロは首を振る。
「ばれた、か?いや、まさかな。」
脱ぎ散らかしていたせいでくしゃくしゃになってしまったドレスの袖を摘まみあげ、太股を惜しげなくさらし、民家の屋根の上を駆けて行く。地上では悪目立ちするし、一刻も早く、ねぐらに帰りたかった。カミュの目につく前に。いくら親友とは言え、お説教はごめんだ。
ミロは事前に開けておいた窓から部屋へ滑りこむと、ドレスを脱ぎ捨てる。一瞬、カノンの触れた名残を思い返すように肌の上へ指を滑らせるが、そんな自分を戒めるように頭をふり、カミュが渡してくれた薬を掴みあげる。
そのまま、勢いよく飲み下す。
何も起こらない。
一分が十分になり、十分が三十分になる。シャワーを浴びた髪がじゅうぶんに拭かれないまま、使われることのなかったベッドのシーツに水滴を垂らしている。開けたままの窓から、陽光が差し込み始め、ミロは朝の到来を知る。
シンデレラの魔法はいつ解ける?
夜ではないのか?
次第に焦りを覚え始めたミロは、適当な服を身にまとうと、なおざりにホテルをチェックアウトし、村に滞在して世話役の少年の様子を見ているカミュの元へ急ぐ。
「カミュ、元に戻らんぞ!」
大急ぎで駆けてきたため、ミロの髪はほとんど乾いているが、あちこち髪の毛が跳ねている。ブラジャーをしていないため、薄手のシャツの下で上下する胸が、あからさまなほど自己主張している。
カミュは手近にあった毛布をミロへ押しつけると、ミロから事情を聞き出し、首を傾げる。
「しかし、調合に間違いはないし、実際、この少年は元に戻っている。元に戻れるはずだが…。」
「だが、実際問題、戻っておらんではないか。」
不満を漏らす親友のため、カミュは古い文献をめくる。それから、ミロのせかす声を聞きながら一昼夜調べてみたが、原因は判然としない。カミュは文献を閉じ、溜め息をこぼすと、不安にいらだっているミロに向き合う。
「性別が変わってしまう逸話は、世界各地にある。その後、どうなるか、だいたい同じだ。文献に記述はないが、これも、それと同じストーリーをなぞったのだろう。」
「どういうことだ?」
「男が女に変わった結果は、「嫁入り」が多い。あまり言いたくはないが、カノンと寝たせいで元に戻れなくなったのではないか?そうとしか考えられん。」


その後も原因は判然とせず、ミロはカミュの勧めで聖域に一度戻ることになる。
ミロは戻りたくなった。みなに、今の自分を見られたくなかったからだ。
ミロ自身は、自分の体の変化自体にはさほど衝撃を受けていない。自分が男であっても、女であっても、自分は自分であり何も変わらないことを知っているからだ。変わるのはあくまでも周囲であり、自分ではない。ミロは自分が蠍座の黄金聖闘士ミロであり、それ以外にはなりえないことを承知している。
それにもかかわらず、聖域のみなに、現在の自分の姿を見られたくなかったのは、現在のミロこそはカノンを騙して一夜を過ごした「証拠」に他ならないからだ。
根が真面目で、愚直なまでに黄金聖闘士の体面を重んじるミロである。みなの手本たる黄金聖闘士である自分が他人に不意打ちを喰らわせたという事実を、親しい友人であるカノンに知らせるのは、これ以上ない苦痛だった。
友情を捨てても良いのであれば、男の体のまま抱かれても、ミロにとっては大差ない。
あくまで女の体に固執したのは、これならば友情を犠牲にせずに済むと思ったからだ。



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