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続いてます。
続きました。

いちおう、完結で。
プロットのため、粗い文章ですみません。
おそまつさまでした。


拍手




足早に近づいて来るカノンの小宇宙に、アテナは顔をあげた。女神に拝するにしては、カノンはやけにラフな格好をしている。目で用件を問いかけると、カノンは膝をついた。
「実はアテナ、ミロのことなのです。」
カノンは堅苦しい言葉で、ミロがしばらく黄金聖闘士としての任務につけなくなったことを自分のせいだと謝罪する。アテナはそれを聞いて、にっこりした。
最近、カノンとミロのパーソナルスペースが近くなったのには気づいていた。最初の一カ月はやきもきしていたが、どうも、ミロはカノンとうまくいっているらしい。そのことを嬉しく思った。
しかし、ときおりミロが浮かべる憂い顔を心配して尋ねてみると、ミロにしては珍しく、要領を得ない言葉が返ってきた。しばらく休暇をとろうか検討している、とも。アテナは当然のことながら、ミロの妊娠を承知していたので、休暇申請はごく当然のなりゆきだとは思ったが、それをはたしてカノンが知っているのか、内心、心配だった。
ミロは実直な人柄で、良くも悪くも、思ったことをそのまま言動に移すタイプの人間だ。だが、カノン相手だと、その定理は崩れるらしかった。
恋、とは違う。恋人らしい甘さは、ふたりには感じない。パートナーというのも、違う気がする。ミロにはカミュ、カノンにはサガこそ相応しい。友情がもっともそれらしく思えるが、友情だけで、今までの自分(オトコ)を捨てる覚悟ができるものだろうか。
枠組みはなんだっていい。ミロがカノンの罪すらも肯定し、カノンがミロを惹きつけている事実だけで十分だ。
アテナはカノンを立ち上がらせ、その両手を取った。そうして、自分よりかなり背の高いカノンの目を覗き込んだ。
不安げなカノンの姿に、あの日、聖戦という大舞台で見えたときの姿が重なる。突然自信たっぷりに登場し、けれど、押し殺し切れない自分への不安と悔恨を目に宿したカノンは、ミロに贖罪されてなお、贖罪は感謝したものの、自分は幸せになる道などないと答えた。
そうして、アテナのつむぐ未来のため、無心で闘い、犠牲になることを願った。
無心ではなかったはずだ。カノンの胸には、絶えず、ミロへの感謝の念があったのだから。
「カノン、ひとつだけ、どうしても確認しておきたいことがあります。」
じっと目を覗き込むアテナに、カノンが戸惑いながらも頷いてみせる。アテナは問い質した。
「今、あなたは幸せですか?」
一瞬、怖気づいたようにカノンが瞼を伏せた。しかし、次の瞬間には、溌剌とカノンが笑う。
「はい。」


ミロは不満だった。カノンが帰って来ない。トイレで抜いて来るだけにしては、やけに時間がかかる。
すっかり火照った身体を持て余していたこともあり、ミロは掛け布団から這い出ると、トイレに向かった。いない。風呂場は?いない。リビングにも、ダイニングにも、どこにもいない。念のため、サガの寝室も調べてみた。やっぱりいない。
カノンは自慰をしに行ったんじゃないのか?ここでやっと、ヤることしか頭になかったミロの頭に、それ以外の可能性が浮かんだ。カノンは嫌気がさして、逃げたのかもしれない。いや、そんな馬鹿な。カノンはそんな卑怯な男ではない。他の女の前ではどうだかしらないが(別れはいつだってスマートなはずだ)、少なくとも、俺の前では。
冷静になろうと努めて、冷水で顔を洗ってみるも、無駄な努力だった。カノンのことになると、自分が短慮になる自覚はあった。黄金聖闘士としての体面もへったくれもない。カノンに軽蔑されることが怖い。
軽蔑?いや、軽蔑されることよりも、カノンが傍にいないことが怖い。たとえ軽蔑されても良い、傍にいれるなら。
いずれ生まれ来る子供をたてにとって、傍にいるよう強要する自分はあさましいだろうか。だが、それくらいしか、いくら探してみたところで、カノンの傍にいれる理由がないような気がする。カノンは良い男で、本当に悔しいくらい良い男で、女も男もよりどりみどりなのだ。こんな、男なのか女なのか判然としないような自分をわざわざ選び取る必要はない。
5分、じりじりしながらカノンの帰りを待ってはみたが、いてもたってもいられず、ミロはカノンを探しに行くことにする。ともすれば駆け出しそうになる足を必死になだめて、落ちついたそぶりで、十二宮の階段をあがっていく。
カノンの小宇宙は教皇宮で感じた。そばに、アテナの小宇宙も感じられる。
自分はもう戦える身体ではないから黄金聖闘士を罷免しよう、とアテナに打診していたらどうしよう。
不安に足がすくんだ。
教皇宮の扉をノックしようとして、躊躇する。軽蔑のまなざしを向けられたら。そのとき、内側から、ミロを呼ぶアテナの声がした。
腹をくくって、中に飛び込む。
想像に反して、ほがらかな空気に思わず気が緩んだ。アテナはにこにこしている。拍子抜けして、わけがわからず目をぱちくりさせていると、にやにや人の悪い笑みを浮かべたカノンと目が合った。
「お前、突拍子もないことを考えるな。」
「何が?」
「アテナの力添えを得てまで、俺を落としたかったのか?」
前言撤回。にやにや、ではなく、にまにまだ。ふてぶてしく笑うカノンの頬は思い切り緩んでいる。軽蔑されるよりはよっぽど良いが…。いたたまれなくなり思わず視線を逸らしたミロに、満面の笑みのアテナが、ちっとも申し訳なさそうに感じられない口ぶりで言った。
「ごめんなさい、ミロ。今、すべてばらしてしまったの。」
「アテナ…。」
「余計な意地など張らず、全部正直に話してしまったらいかがですか?」
「…。」
ミロも男だ。守り抜きたい意地がある。たとえそれが余計な意地と言われようと、男の沽券に関わるのだ。カノンが好きで、誰にも譲りたくなくて、自分の知らない顔も全部知りたくて、カノンが女だけに見せる顔見たさに抱かれてみたくて、傍にいたくて、あさましいほど執着しているなど、カノンには知られたくない。ミロ自身、さきほどようやく気付いたばかりの自分の一面にぞっとしているのだ。みなの手本たる黄金聖闘士の自分に、よもやこんなあさましい人間的な部分があるとは、思いもよらなかった。
羞恥に頬を赤らめて押し黙るミロに、困ったようにアテナがカノンを見る。カノンはアテナの眼差しを受けて、面白がるように肩を竦めてみせると、前触れもなくいきなりミロの肩を抱き込んだ。
「ミロ、お前が傍にいてくれると俺はこの上なく、地上に生きとし生けるものの何よりも、幸せになれそうなんだが…自分の一生を犠牲にして俺を幸せにしてくれる覚悟はないか?」
「…馬鹿なことを言うな。」
アテナがとても楽しそうに、けれど、わざとらしくそわそわと爪のマニキュアの仕上がり具合を見て「私は聞いていませんもっと大事な用事があるので」アピールをしながら、ミロの返答を待っている。
ミロの胸中で、なけなしのプライドと歓喜が渦を巻いて、ぐちゃぐちゃマーブル模様を描いている。ミロは歯がみして悔しがると、きっとカノンを睨みつけた。
「お前こそ、生涯かけて俺の傍にいろ。絶対、離れるなよ。途中で嫌気がさして逃げ出そうとしても、逃がさないからな!」
そう言いきったミロの顔は、首まで真っ赤だった。
最初に、ぷっ、とカノンが吹き出した。それから、堪え切れなかったようにミロが。意地を張っていた自分がバカみたいだ。ずっと求めていたものは、すぐ手の届く距離に会ったのに。
嬉しそうにアテナも笑い声を上げる。
ミロは眦に浮かんだ笑い涙を拭って、「おめでとう。」我がことのように喜ぶアテナの抱擁を受けた。
カノンのたった一言でこれほど喜びに満ちる自分に呆れたが、それ以上に、幸せだと思った。
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