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4話?くらいになりそうです。
正式に掲載出来るめどがついたら、削除します。






ミロが城戸邸にいる氷河のもとへ顔を出したのは、年が明けて間もなくのことだった。
与えられた客室の扉をノックする音に、何の気なしに、星矢か瞬あたりだろうと扉を開けた氷河はミロの姿を見て目を見開いた。アテナの護衛役として視察に付き従うことも間々あるとはいえ、ミロが聖域を出ることは滅多にない。黄金聖闘士は守護する宮に常にいるべきだという信念を持つミロは、親友の居るシベリアにも数えるほどしか顔を出したことがなかった。
それに、ミロの恰好もある。これまで氷河は、黄金聖衣か修行着、シベリア訪問時の厚手のコート姿、護衛役としてのスーツ姿のミロしか見たことがなかったので、ダウンジャケットにジーンズというラフな格好のミロに驚きを隠しきれなかった。
「突然、すまない。元気でやっているか?」
「あ、ああ。あなたの方こそ、元気そうで良かった。それにしても、どうしたんだ、ミロ?」
驚きながらも室内へ迎え入れようとする氷河を、ミロは頭を振って制止した。
「アテナの護衛として来日したのだが、今日は星矢や瞬と気兼ねなく過ごしたいらしくてな。一日、休暇を頂戴したのだ。」
「そうなのか。」
「まあ、あいつらがいれば、アテナは安全だろう。俺も水を差したくはない。」
今回、ミロが沙織の護衛役として来日していた事実すら知らなかった氷河は、ミロの説明にようやく納得した。沙織たちは、シベリアから出てきた氷河に、誰が護衛役なのかあえて教える必要性を感じなかったのだろう。氷河は氷河で、珍しく沙織が屋敷に滞在しているのは瞬から聞き及んでいたが、アイオリアかシュラが護衛につくケースが多く、氷河の親交があるカミュやミロは滅多に持ち場から離れないため、たいして興味を持たなかったのだ。
ミロはそんな氷河の様子を面白そうに眺めていたが、にっこり人好きのする笑みを浮かべた。
「ところで、お前、もう今日は予定が入っているのか?」
一瞬、氷河は今日しようと思っていたことを脳裏に思い浮かべた。本当に、一瞬だけだった。今日絶対にしなければならないことがないことを確認すると、氷河は首を振ってみせた。ミロには尽きせぬ恩義があった。それを抜きにしても、氷河はミロといたかったのだ。


1時間後、氷河はミロと東京の観光地巡りをしていた。ミロが観光をしたいと言ったからだ。何でも、最近、ミロは沙織の母国である日本に興味を抱き、日本語の勉強も始めたらしい。沙織に生真面目な敬慕を注ぐミロらしい話に、氷河の心は温かくなった。氷河はそんなミロを心から愛していた。
とはいえ、半分は母国とはいえ、聖闘士になるための修行に明け暮れ、シベリアに居を構える氷河も、日本の観光地には明るくはない。氷河は書店で観光雑誌を購入すると、ミロが興味を持ちそうな場所を何箇所か見つくろった。寺院メインになったのは、他国の神を見てみたい、とミロが横から口を挟んだからだ。
最初に向かったのは、浅草だった。外国人向けの観光地として有名な場所だが、氷河も実際に足を運ぶのは初めてだ。
この日、東京にしては珍しく降雪の予報が出ており、空には厚い雲が立ち込めていた。灰色を含んだ白い空の下、平日ということもあって人の往来が少ない寺院は、厳粛ながら親しみやすさも感じさせる、独特な雰囲気を醸し出していた。道すがら通りすがる人々の大半は、年配者か、観光中と思しき外国人で、観光地らしく確かに活気はあるのだが、東京の喧騒とは隔絶されているように思われた。
テレビでよく見かけることもあり、正直、そんなに期待はしていなかった氷河は、浅草の様子に目を奪われた。浅草は、想像以上に、ノスタルジックな場所だった。実際の日本は近代化が進んでいることを承知している氷河でも、思わず、古き良き日本の風景に目が釘づけになった。
「ギリシャ以外にも、このような場所があるのか。さすがは、アテナが住まわれる国だ。」
隣のミロも、目を輝かせている。氷河もミロも金髪なので、傍から見れば完全に海外からの観光客だろう。氷河は内心苦笑を禁じ得なかったが、それ以上に、本心から来て良かったと思った。もっとも、ミロに請われれば、氷河はどこにでも飛んでいくつもりだったのだが、それを口にするだけの浅慮も勇気も持ち合わせがなかった。
有名な雷門の前に来たとき、記念撮影をしたいといってミロがカメラを取り出した。シャカに自慢するらしい。
「あの、シャカか?」
「そうだ。出不精なあいつはきっと羨ましがるだろうから、沢山写真を撮っていって見せてつけてやろう。」
ミロが笑う。ミロが何のてらいもなく、根が生えたように処女宮から動こうとしないシャカのことをからかうので、氷河はびっくりした。シャカは、とうてい人づきあいが良いタイプではなかったからだ。カミュの話では、ミロはあのカノンとも誰より仲良くやっているというので、氷河が思っていた以上に、ミロは人づきあいが巧いのだろう。
ミロはどちらかというと直情型だが、アイオリアのように熱意に振り回されるだけの男ではない。自らの非を認めるだけの器量も持ち合わせている。黄金聖闘士としてのプライドが誰よりも高く、理想に添うよう自分のみならず周囲にも強いる点が厄介といえば厄介ではあったが、カミュによって聖闘士の生きざまを叩き込まれた氷河には、詭弁を弄せず行動で信念を示すミロの態度がかえって清々しく感じられるのだった。
「オレが撮ろう。」
申し出る氷河に、ミロが快活に笑った。
「駄目だ。こういう写真はみなで撮るものなのだろう。お前も映るが良い、氷河。」
ミロはそう言うなり、近くの人を掴まえに行ってしまった。日本語のわかる氷河に撮影者の確保を任せるなど、考えもしなかったらしい。氷河は一瞬あっけにとられたものの、身ぶり手ぶりのカタコトで撮影の依頼をしているミロの成果を待つことにした。
足早に進んでいったミロは、売店員を見つけると、目を輝かせた。歩調に合わせて、ふわりふわりとくせ毛が跳ねる。
こうして観察していると、氷河は改めて思い知らされる事実があった。ミロには、威圧的なまでの存在感があるのだ。男にしては珍しいほど長い金髪に、ほどよく日焼けした金色の肌、目鼻立ちのはっきりした端正な顔立ちも要因の一部だろう。しかし、それだけではない何かが、ミロにはあった。
氷河が師と仰ぐカミュも人目を引く男だ。美しく燃える赤毛と、対照的に、静けさを孕んだ冷たい雰囲気と美貌が、異性の心を捉えて止まないことを氷河は知っている。他の黄金聖闘士にしてもそうだ。黄金聖闘士はみな、浮世離れした存在感の持ち主ばかりだった。
しかし、その中にあっても、ミロの持つ雰囲気はどこか変わっていた。生と死を守護する蠍座の黄金聖闘士だからか、二面性のようなものがあった。真面目な表情のときは冷たさなすら覚えるほど鋭利な目も、ひとたび笑えば騒々しいまでの陽気さを湛え、人懐こく見えた。くるくる変わる表情は、否応なしに人々を惹きつけた。まるで、鮮やかな夏日のように。
白に覆い尽くされたシベリアに住んでいるので、なおさら、惹きつけられるのだろうか。
そんなことを考えている間にも、ミロは無事交渉を成功させたらしい。満面の笑みで手を振りながら戻って来た。後ろを歩く売店員も、手慣れた様子でミロのカメラを弄りながら近づいてくる。
それから、観光地に行くたびに、ミロは写真を撮りたがった。シャカに自慢するだけではなく、勉強の一環として、アルバムにして取っておくのだそうだ。
氷河には、カメラを向けられて、年相応にピースするミロが新鮮だった。師が懇意ということもあり、ミロのことは幼少期から見知っていたが、サガの乱のときの天蠍宮での応酬と真摯に黄金聖闘士であろうとする姿勢が鮮烈で、ミロも氷河と同じ人間だという事実を忘れてしまうことが間々あった。
だから、無造作に肩を抱き込まれたときははっとした。
ミロのくせ毛が首筋をくすぐる感触に、無意識のうちに息を止めた氷河は顔を赤らめ、視線を落とした。これがミロにとって何の意味も持たない行動であることは、氷河にもわかっていた。ミロにしてみれば、氷河は親友の弟子で、導くべき青銅聖闘士の一人でしかない。そんなことは、重々承知だった。
無頓着にミロが笑う。
「ほら、氷河も笑え。」
そのとき、氷河の中でふいに沸き起こったのは、憤りと焦燥感だった。
氷河はミロが考えているような子どもではない。清廉潔白な聖闘士でもない。否応なしにミロに惹きつけられるただの男だ。幼少期に出逢ったときから慕ってはいたが、天蠍宮で認められた5年前から浅ましい欲を覚えるようになり、氷河は自分の抱く感情の終着点を見た。
もちろん、氷河はずいぶん悩んだ。聖域に籠っているため滅多に会う機会のないミロを神格化する一方で、浅ましい情欲の捌け口にしてしまう現実に辟易して、ガールフレンドを作ってみたこともある。しかし、毎回判を押したように、ガールフレンドが黄みの強いブロンディだという事実を瞬に指摘されてからは、逃避する努力も放棄し、報われずともミロを慕い続ける道を選んでいた。
口にするつもりも、見返りを求める気もなかった。
だが、少しくらい困らせてやっても良いだろう。
「ミロ、」
「む?何だ、氷河。」
観光巡りを開始した時刻が遅かったこともあり、すでに夕闇が迫りつつあった。空からは今にも雪が降り出しそうだ。そうすれば、交通手段にも支障が出る。聖闘士の自分たちが雪や電車の遅延ごときで困ることはないが、一般人にならって、帰るならば早い方が良い。
氷河は脳裏で言い訳を並べながら、ミロの耳元に囁いた。

『月が綺麗ですね。』

共通言語であるギリシャ語ではなく日本語、それも、夏目漱石の意訳にしたのは、本心では想いを告げるつもりがなかったからだ。
「は?月?」
氷河の台詞に、呆気に取られた様子でミロが瞬きをする。
その瞬間、ストロボが光った。
氷河は撮影してくれた善意の通行人からカメラを受け取ると、不可解そうに空を見上げるミロを振り仰いだ。当然、月など照っていない。頭上には雪雲が広がるばかりだ。氷河は口端を緩めると、いまだ首を傾げているミロへカメラを差し出した。
「もうそろそろ雪になりそうだ。交通機関が麻痺する前に帰ろう。」
記念に、最後の写真くらいはもらっても良いだろう。目を見開いてきょとんとしているミロの写真を卓上に飾ることを思って、今度こそ、氷河は笑った。ミロにささやかな意趣返しができて満足だったが、それでも、胸の痛みは隠しきれなかった。

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