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冒頭のやり取りが思い浮かんだので。


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「ミロ、頼みがある。」
その一言に、チーズを摘まみながらワインを楽しんでいたミロは、背筋を伸ばした。いつになく真剣な面持ちのカミュにつられたのである。
先ほどまで同席していた氷河は、カミュに用事を言いつけられて席を外している。
カミュ曰く、久しぶりに使用するセーフハウスの客室を利用するにあたって不都合がないかどうか確認するようにとのことだったが、もしかすると、目に入れても痛くないほど可愛がっている弟子を体よく追い払いたかっただけなのかもしれなかった。
「親友のお前の言うことだ。俺に聞ける範囲であれば、何なりと聞こう。」
「そう言ってくれて助かる。…実は、氷河のことなのだ。」
「氷河がどうかしたのか?」
カミュの言葉にミロは首を傾げた。
氷河と言えば、次代の水瓶座の黄金聖闘士の呼び声高い青銅聖闘士である。アテナの信篤く、聖戦の折も、青銅聖闘士とは思えないほどの活躍を見せた。ミロに限って言えば、青銅聖闘士で唯一SNを打ち込んだ相手でもあった。
あれから6年の歳月を経て、今では氷河もすっかり立派な男だ。
聖闘士らしく無駄なく筋肉のついた躯ながら若輩ゆえの頼りなさを感じさせた肩周りも、今ではしっかり厚みを帯び、耳に心地よい低めの声と精悍で甘い面立ちもあって、沢山の女を泣かせて止まないに違いないと推察させた。氷を思わせる淡い水色の瞳が憂いを帯びるさまなど、無駄に色っぽく、いかにもアムールの民であるカミュの弟子らしい、とミロを感嘆させたものだ。
よもや、またぞろ黄金聖闘士の地位を降りるなどと言い出すのではあるまいな。
言い淀むカミュの様子に、ミロは内心身構えた。カミュは事あるごとに、氷河に水瓶座の黄金聖闘士の地位を譲り渡し、自らは楽隠居しようとしてきた。
僅かに眉根を寄せたミロの表情から、それを察したのか、カミュが口端を緩め肩を竦めた。
「心配しているならば、今回は違う。」
「そうか。それならば、俺に頼みとは何だ?」
「氷河の童貞をもらってやってくれないだろうか。」
ちょっと意味がわからない。
ミロはその言葉を理解するのに、裕に5秒費やした。実に沈黙の重い5秒間だった。
「…は?!」
「どうも、氷河はお前に想いを寄せているようなのだ。その気持ちに応えて、あれを男にしてやってくれ。」
「ふざけるのも大概にしろ、全然笑えん。だいたいお前、いくら何でも過保護がすぎるぞ!」
「別に冗談を言っているつもりはない。」
にこりともせず真顔で言いきると、カミュの思惑通り、ミロがたじろいだ。
煌びやかな外見に惑わされやすいが、黄金聖闘士内で一二を争うほど、ミロは根が真面目である。長い付き合いであれば、このような対応をされた場合、どれほど馬鹿げた言動であろうと真剣に受け止めざるを得ないミロの気性など重々承知だ。
カミュはずいと身を乗り出した。
「実は、先日、氷河に縁談があったのだ。ブルーグラードの統治者の娘、氷聖闘士の頭の妹だ。身分においても美貌においても、申し分のない素晴らしい縁談だった。」
「それが、この件とどのような関係がある。」
「良いから黙って聞け。お前は結論を急ぎすぎだ。」
カミュにしてみれば、氷河が縁談を断ったのは、驚くに当たらなかった。どれだけ恵まれた縁談だろうと、当人にその気がないのであれば仕方ない。また別の縁もあるだろう。フランス人であるカミュはそのように考えたのだ。
しかし、カミュにはひとつだけ、気にかかったことがあった。縁談を断った理由だ。
後日、カミュがそれとなく断った理由を打ち明けるよう匂わせると、カミュを無二の師と崇める氷河はてらいもなく答えた。
「結局、氷河はこの話を断った。どうも長らく好いた者がいるそうだ。」
「だからといって、その相手が俺だという確証は、」
「確証ならば、ある。ミロよ、お前は、氷河がお前を見つめるときの眼差しの熱さに気づいたことがないのか?どれだけ多忙だろうと、お前がたまには聖域に顔を出すよう声をかければ嬉々として駆けつけることにも?」
これには、ミロもぐうの音も出なかった。カミュが指摘したことは、ミロ自身、薄々勘付いていたことだったからだ。
「出来れば、氷河の想いに応えてやって欲しい。だが、無理を言っても仕方ない。応えられないのならば、せめて、良い思い出として諦めさせてやってはくれないか。」
畳みかけるように言えば、曖昧にミロが顔をしかめた。進退極まったときに見せる定番の表情だ。
むろん、氷河がミロに想いを寄せているからと言って、想いを断ち切るためにミロが氷河に抱かれてやらねばならない義理はない。その道理がまかり通るのであれば、我らがアテナの処女神という概念も消滅してしまう。氷河の決断はすべて氷河に帰結することであり、そういう意味では、ミロは無関係に等しい。
つまるところ、カミュの発言は単なるレトリックに過ぎないのだが、このときも、変に根が真面目なミロは真剣に受け止めてしまったのだった。


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