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雑記および拍手にてコメントいただいた方へのご返信用です。
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サイト10周年でした失念しておりましたすいません。
いつも拍手してくださる方々、ありがとうございます。
ぬこを飼ってから、すっかり妄想の停滞している私ですすいません。

以下、曙光のプロットです。
希望としては、続きを書きたいです。
でも、あまりにも文章にこだわりすぎたせいでテンション続かず、途中で力尽きたんですよね…。


拍手




(9)
歩を進める毎に、具足が雪へめり込んだ。三成は足を取られぬよう意識を取られながら、腰へ差した刀に右手を添え、松永軍本陣を目指して一路疾走した。吐息が白煙となって尾を引き、三成の後に続いた。
初めての感覚だった。秀吉に対するものとは違う、憤怒というにはどこか甘さを帯びた怒り。攻め落とすという気概ではなく、守りたいという切迫した感覚。
三成は強く唇を噛み締め、睫毛を伏せた。心中、穏やかではなかった。元々、頑迷な性質だ。三成は新しきを拒み、厭う傾向にあった。
しかし、惑いは一瞬だった。
蒙昧なら嫌というほどすでに味わっている。三成はしかと目を見開き、薄く笑った。今更、迷い路に戻るつもりはなかった。夜半の井戸にゆらゆらと浮かぶ月影のように誘うこれが、何ものであっても三成は構わなかった。分析など、刑部の生前同様、他者がやれば良い。
三成は、ただ、在るがままを受け入れるだけだ。
「どうだね、お気に召したかね?」


戦場。

松永は三成が政宗の命を奪おうとしていたことを承知している。そして、心変わりしたことを知りつつも、問いかける。
「」「その首を狩ると決めた…!」
三成自身よりも三成の心を見透かした松永が囁く。
「卿は何が欲しい?モノか?それとも私の命か?ならば欲望のまま奪うといい。それが世の真理。」「欲しい物は手に入れておくといい。例えどんな手を使ってでも。」「認めてしまえば楽になる…卿の負けだ。」
激高した三成は逆に松永の攻撃を受けてしまう。松永、わざとらしく驚いて見せて。
「知らなかった、卿にも血が流れているのか。」
三成に怪我を負わされる松永。そこへ政宗が登場する。孫市が銃を構える。
「追い詰められるか…何事も経験だな。」
「尻尾巻いて逃げるなら今のうちだぜ?ハッ!」
「拾った命は大切にするとしよう、では失礼。」「卿にはいつか、贈り物を捧げるとしよう。」
三成が単騎突入したため、小十郎の策はならず、松永は立ち去る。
「ふむ…次は盾無の鎧でも貰い受けるとしようか。」

その後。孫市の手当てを受けた政宗。孫市は政宗の秘密を知ったが、黙っている。
「なして名前さ聞いただ?おら、農民なのに…。」
「俺には名前がある、お前にも名前がある。それ以上の理由がいるか?」
初めてかけられた言葉を信じきれないいつき。迷いを見せながらも頑なな態度で。
「おら…悪いおさむらいはみんな倒すだよ!」
「気にくわないから倒す、か…ha!その考え、魔王のダンナと変わらねえな。」
「お、おらたちの事、虫けらだって思ってるべ!」
「そんな戯言、誰が言ったか知らねえが…そいつを連れて来な…俺がぶっ飛ばしてやる。」
呆然とするいつき。
「おらたち…おめえさんを信じていいだか?平和な世の中を信じていいだか?」
声が震えている。政宗は頷き、いつきの頭を安堵させるようにぽんぽんと軽く叩く。
「くじけそうになった時は夢を思い出せ、デカイ夢だ。そうすりゃ…必ず勝てる。戦のない、平和の天下を作ってやるぜ!」
わっと泣き出したいつき。
しばらくしてから、伊達に借りが出来たので仕えようという孫市。政宗はどうせなら雇われ者としてではなく仲間として手を貸してくれと言う。
「絆か…傭兵相手に変わった言葉を使うのだな。」
家康の受け売りだけどな、と政宗。孫市は徳川とも会ってみたいものだという。その者も、からすなのだろうな。
「我ら、誇り高き雑賀衆!只今より、契約の赤い鐘を執行する!響け!我らが炎の音を打ち鳴らせ!」
孫市は笑い、新たな友のために鐘を打ち鳴らす。
「覚えておけ。これは我らが心、我らが炎、我らが誇り。命の炎尽きるその瞬間まで、お前の力となろう。」
政宗の覚悟を目にして、三成は考えが変わる。政宗の天下のために一肌脱ごうと考える。


(10)
「…眠れない…何故だ?」
政宗のことを考えてしまい眠れない三成。
夜更け、政宗が三成をからかいに来る。政宗が撃たれたとき、血相を変えたと聞いた。松永を逃したので小十郎はアンタの行動に少しカッカしてたみたいだが、恩が出来たって言ってたぜ。刀傷と銃創は違う。政宗の傷は深く、すぐ手当てを受けないことには拙かった。陽動作戦など以ての外。今は弾丸を摘出し、化膿止めを塗ってある。
手には手土産の酒。怪我にアルコールが障ると諭す三成。言っても聞かないので、政宗の分も全て呑み干す。三成の酒の強さに少し驚いた政宗は、その呑みっぷりを誉める。談話。いつきの処遇の話や、慶次と家康との交友、など。
半兵衛による暗殺未遂事件にも話が及ぶ。あのときは小十郎が撃たれた。
豊臣主従を崇拝している事実は変わらないが、事実を受け止め、少しだけ考えを改める三成。
それから、ふらりと酒を持ってくるようになった政宗。孫市は酒を呑まない主義。思考が鈍り、咄嗟のときに対処できなくなるので、政宗がいくら誘っても相手をしてもらえないんだとか。
時折、いつきは遊びに来た。政宗のことを男と勘違いし、好いているようだった。政宗を前にすると頬を赤らめてもじついた。
すべてを知る孫市はそれでも微笑ましいではないかと笑った。それから、政宗といつきのやり取りを監視するように睨みつけている三成に目をやり、
「偽り方を知らない男、裏の心を持たぬ不調法…。」「憎しみが晴れた今、貴様はどう生きる?フフ…どんな生き様が待っている?」
孫市の台詞にからかわれているのかと思って眦を吊り上げる三成。孫市は否定する。私はお前のそんなところを気に入っている。
その晩、月夜。降り積もった雪が音を吸って静まり返っている。いつものように酒を持ってきた政宗の肌は、アルコールで赤らんでいる。蜜月の蕩けそうな熱に火照った肌を彷彿とさせた。考える前に手を伸ばしていた三成。しかし、脳裏に松永の台詞が蘇える。
奪いたいわけではない。
政宗のことを守りたいのだという思いを自覚した三成。伸ばしかけた手を戻し、拳を握る。「惚れた女は死んでも守れ。それが男の役目だ。」慶次の言葉を思い出し、決意を固める三成。政宗を守る、伊達の天下取りの手助けをする、政宗の未来を築く。
勝手に「貴様は私が守る」的な発言で宣言する三成。
勝手に宣言された政宗はいぶかしんで瞬きをした後、からりと笑う。そりゃよろしくたのむ。

翌朝、三成は孫市の元へ行く。城の片隅の雑賀用の部屋。挑発的に。怒った口調で宣言。
「私の生き様はただ一つ、政宗の未来を築くことだ」的な発言。
それだけ言って、三成は去っていく。孫市はわざわざ報告しに来た三成の律儀さに少し呆気に取られてから、姿が消えた後、声を上げて笑う。聞きつけた雑賀衆が何事かとやって来るのを追い返し、孫市はしばらく笑っている。


(11)
新年が近付いている。
とうとういつきが政宗に告白した。政宗はいつきをやんわり傷つけないように振る。政宗の前では傷ついた様子を見せまいと努力したいつき、けれど、政宗のいないところでわんわん泣きじゃくり、たまたま三成がそれを見かけてしまい、慰めるはめになる。
いつきに政宗のことを言われ、政宗の隣に他の人がいるのを見ても祝福できるようになりたいと言われ、三成は政宗へ想いを打ち明ける決心を固める。
その晩、二人きりの酒の席。いつきの話になる。女だというわけにもいかないし困った、とぼやく政宗。そんなとき、三成は政宗に告白する。固執を晴らしてくれた光だという。けれど、政宗は男である道を捨てられない。政宗は少しためらった後、三成を振り、もう酒の席にも来ないと告げる。
翌朝。
「フフ、男の体裁とは面倒なものだな。」
三成からやりとりを聴いたらしい孫市は、体裁を捨てて本音のまま三成を求められない政宗を笑う。わざわざ笑いに来た孫市に、政宗は少しいらつく。孫市は素直になれと諭す。我らは自由というわがままを尊重する。
それまで黙って孫市の発言を聴いていた小十郎が、孫市に対して何も知らねえくせにと怒る。が、孫市はそれをあっさりあしらって。
「お前の言うことは分かる。だが、お前の生き様は美しすぎる…夢のように。」(対小十郎)
貴様のその想いが政宗のかせになっているのだとばっさり切る。強すぎる縁も時にはかせでしかない。貴様らはそれを知るべきだ。少なくとも、我らは――否、私はそう考える。私はそれを三成から学んだ。
あとは自分で考えるんだな。言い捨てて孫市は去っていく。孫市の発言を前に、政宗は考え込んでいる。

(12)
新年の挨拶の席、部下を招いての酒宴の席。政宗近くの上座で黙りこくっている三成。政宗に振られた三成は、それでも、政宗を守ると決めている。潔い三成。
新年の挨拶口上。
政宗は性別ばらし→婚約を宣言する。ざわめく縁席上。動揺する部下たちを小十郎と孫市が黙らせる。政宗は三成を見て、にやりと笑う。これが俺の答だ。政宗は三成へ手を伸ばす。あんたにとって俺が固執を晴らした光だというなら、俺にとってあんたは真実を照らした光だ。三成は差し伸べられた手を掴む。政宗はにっこり笑うと、手を引っ張って席を抜け出す。二人きりで自由になれるところへ連れてってくれよ、ハニー。三成は重々しく生真面目に頷くと政宗の手を引いて歩き出すが、数歩歩いたところで抱き上げる。貴様は私のものだ、もう逃がさない。
背後の大部屋はまだざわついている。
いつも二人で呑んでいる三成の部屋。二人きりになれる場所ってここかよ、と茶化しながらも愉しそうな政宗は満足気。連れてはきたもののどうしたものかまどう三成を押し倒し、政宗が馬乗りになる。
責任とってせいぜい幸せにしてやるよ。
にやりと笑う政宗を三成は抱き寄せて、それは私の台詞だ、三成は噛みつくようなキスをする。



外伝
1:手紙をしたためる政宗に手紙をもらいたがる三成。幸村からの文を渡しにやって来た佐助が三成に半殺しにされそうになり、逃げ去る。幸村の字は汚くて読めないが、政宗が女であったことを驚きつつも、結婚を喜んでいるよう。同様に謙信からの祝いの文を届けに来た。届けに来たかすがは、政宗に結婚の先を越されたことを大いに悔しがりつつ去る。それで私への文は書くのか書かないのか。空気を読まず催促する三成。
2:4月。結婚式。いつきにいつ子供は生まれるんだ(農村だと)もうできてても良いくらいだべと言われる。結婚前に孕むとか駄目だろという政宗と、いつきの言葉を真に受けてショックを受け、子作りに励むことを誓う三成。なんか思っていたのとは少し違うが、三成が生きる希望を持てて良かったと喜ぶ家康。
3:結婚式にきた慶次が孫市に一目ぼれして伊達に居候しようとする話。仕官するなら置いてやる、と茶化す政宗。ただめしくわせないから、働けよ。えー、と嫌がる慶次の首ねっこを掴まえて、三成が視察に無理矢理連行する。視察中、政宗とはどうなんだと興味津々で尋ねまくる慶次。女でることを認めてからの政宗は雰囲気も柔らかくなったし、色気もあるし、政宗はべっぴんさんだよなあ。慶次の発言に俄かに眼光鋭くする三成。貴様、まさか政宗のことを…!抜刀する三成。孫市を惜しみつつも、伊達領から退散するしかない慶次。





春、幸村・慶次・家康が遊びに来る。三成が奥羽にいると聞いたらしい。慶次が文を出して、示し合わせて二人で遊びに来たのだとか。
酒盛り。
政宗の天下を助けるという三成の決意を聞いて、自分の天下を手伝ってもらえないので少し寂しそうではあるが、とても嬉しそうな家康。
そこへ慶次がやって来る。慶次は孫市に一目ぼれしたらしく、三成に根掘り葉掘り聞いて来る。孫市が政宗のいい娘だと噂を聞いたらしく、少し凹んでいる。しかし、政宗が女だと知っている三成はその噂を一蹴する。とたん、目を輝かせる慶次。そういえば、アンタ、いい娘とはどうなんだい?進展したの?
そこへ政宗が孫市を伴ってやって来る。何を話していたのか聞いて、意外そうな顔をする政宗。まさかアンタがなあ。三成は少しむきになって否定しようとするが、確かに性格が丸くなった恋をしたからか、と家康が肯定してしまう。どんな娘なのか聞き出そうとする家康と、破廉恥だと騒ぐ幸村。そこに、無言で政宗の様子を窺っていた孫市がぽつりと爆弾投下。政宗も憎からず想う相手がいるようだが。急に矛先を向けられて内心ぎょっとする政宗と、顔が白くなる三成。確かに色気が出たよなあってハッやっぱりそれって孫市のことなんじゃと青褪める慶次に、家康が、そうであったら本人が言わないだろうという。では、先の一揆で知り合ったという美少女か。そこに、三成。
「片倉小十郎か…?」
え、衆道?とざわつくが、あまりにも問われた当人がきょとんとした態度でびっくりしているので、すぐに違うと分かる。しかし、頑固な三成は信じ込んでしまう。孫市は佐助に言う。
「どれほどじれったいか、貴様ならわかるだろう。」
お膳立てしなければ何も進まないと嘆く孫市。


関ヶ原あと没プロット(1)

孫市によってそそのかされた慶次の仕業で
天下分け目の決戦の後、身辺整理を終えた三成は慶次の許を訪れた。丁度、軍神に伴われた直江兼続に付き従って、慶次が武田を表敬訪問していた折のことである。表敬訪問と言えば聞こえは良いが、同じく甲斐に居た家康や幸村と、年の近いこともあって大いに馬鹿騒ぎに興じていた最中の三成の来訪だ。年相応の振る舞いに欠き、ともすれば堅苦しくなりすぎるきらいのある三成は、そんな三者の騒々しさに動揺した。だが、一興と捉えた家康と慶次は、三成を巻き込み、やんややんやと酒盛りをおっぱじめた。どうも二人は、酒の力を借りれば三成も取っ付きやすくなるものと考えたらしい。
三成にとって、このような酒宴は初めての経験である。どうすれば良いのか尋ねようにも、周りにはまともな輩がおらなかった。庭では泥酔した幸村が同じく酒を過ごした信玄と大立ち回りを始め、迷彩柄の派手な忍びに制止されていた。酒豪で鳴らす謙信は、顔色一つ変えず、鮮やかな異人の娘の酌を受け、かんらかんらと笑っていた。そして眼前には、眼の据わった家康と、明らかに面白がっている慶次の両名だ。亡き主の逸話を強請るような雰囲気でもなかった。間を置かず注がれる杯に三成は酷く困惑したが、やがて腹をくくると一献呷った。
翌朝目覚めると、三成は客室の布団の中だった。頭は強かに痛み、咽喉が渇いていた。昨夜の記憶は皆無と言って良いほど存在しなかった。三成はよろめきながら、一杯の水を求めて部屋を出た。
慌ただしく旅支度を整えている慶次に出逢ったのは、水場へ向かう渡り廊下を半ばも差し掛かったときのことだった。三成は愛馬松風の背へ荷物を山と積んでいる慶次に蔑視を向けた。
「前田慶次か…貴様、こんな早朝から何をしている…。」
向けた眼差しが些か怨みがましいものとなったのは、酒を盃で真水のようにたらふく呑んでいた慶次が、まったく酒精の影響を残しているようには見えなかったからだ。痛む頭を押さえながら問う三成に、慶次は眼を瞬かせてから、相好を崩した。
「なにって、決まってるじゃないか!独眼竜に会いに行くんだろ?」
二日酔いで思考力の低下している三成には、話がまったく見えなかった。亡き主の逸話を知るため甲斐まで遥々来てみれば、慶次は奥羽へ向うのだろうと問うてくる。眉間に深いしわを刻み怪訝な面持ちの三成の肩を激しく叩きながら、慶次は嬉しそうに笑声を上げた。
「いやあ、まさかあんたと独眼竜がそんな好い仲だったなんて。あんた、しれっとした顔してずいぶん熱い男じゃないか!うんうん、独眼竜もああ見えていい娘だし、ちょいと冷めて見えるあんたとは良い夫婦になると思うよ!」
慶次の物言いに三成の耳が僅かに赤らんだ。慶次が政宗の性別を知っているのが気にかかったが、他愛なく発された夫婦という単語に狼狽してしまった三成は、しかめ面を作った。
「…何を言っている?」
「何を、って…やだなあ、それ何の冗談だい?昨日あんなに暴れておいてよく言うよ!」
「暴れる…?何の話だ。」
ますます渋面になっていく三成に、流石の慶次も首を傾げた。
「えっ、やだなあ…あんたまさか、本当に覚えてないの?」
だが、それも慶次には小事であったらしい。満面の笑みを湛えた慶次が身振り手振りを交え三成に語って聞かせた経緯を要約すると、以下のような内容になる。
最初に、三成が卒倒した。かつて日ノ下を震撼させた狂王が酒に強くないと判明するのに、さして時間はかからなかった。おそらくは、杯を空ける速度も速すぎたのだろう。元来白い貌を更に白くして、満足に呂律の回らない唇で頓死の許可を秀吉へ求める三成に、家康は慌てふためいた。だが、共犯者は別だった。上杉に身を寄せるまで京の花街をねぐらとしていた慶次は、酔っ払いの扱いに慣れていたこともあり、三成が胃を空にするまで嘔吐したのを見終えると、大事ないと判断した。
ここまでは、若者にありがちな酒盛りの失敗談だった。後日、宴席にいた人々の口端に多少のぼるだろうが、それだけの話だ。長く尾を引く要素などなかった。
ところで、三成の介抱にあたらされた者がもう一人あった。武田の忍び、猿飛佐助だ。それまで、佐助は何か含むところがある様子で、主の賓客である三成と距離を置いていた。しかし、介抱に駆り出されれば、否応にも三成との距離は縮まる。三成に肩を貸しながら、佐助は何事か三成に耳打ちした。佐助の発言は小声だったので慶次の耳には届かなかったが、俄かに三成の顔色が変わった。宴会場に三成の罵声が響いた。
「この間男め!貴様の愚行は万死に値する…ッ!」
佐助にとって不幸なことに、いつ何時大事が起ころうとも対処できるようにという信玄の方針で、宴会場には各人の得物が持ちこまれていた。三成は刀を抜き放つと、佐助に千鳥足で斬りかかった。流石に場が騒然となった。
「私に誅戮されろォォ…ッ!」
「う、嘘だろぉ~~?!」
突如始まった壮絶な鬼ごっこに慶次は度肝を抜かれた。まさかお堅い凶王の口から間男などという単語が飛び出すとは。筆舌に尽くし難い衝撃があった。家康などは口を半ば開けて、どう対処したものか思いあぐねているようだった。
予想だにしないことに、三成に加勢したのは佐助の主幸村だった。幸村は酒精に赤くした顔に怒気を滾らせて、部下の不始末を口を極めて罵倒した。どうもこの佐助には前科があったらしい。やがて謙信の懐刀であるかすがが眦を吊り上げ、佐助のことを度し難い色情魔と詰った。いよいよ、佐助の立場が悪くなった。
「俺様なんもしてないのに、いくら何でもひどくないか?!」
佐助は一声叫ぶと、宴会場から逃げ去った。お涙頂戴には程遠い、愁嘆場にすらならぬ刃傷沙汰だった。
やがて三成が足をふらつかせながら席へ戻って来ると、慶次は尻をもじつかせた。佐助が消えたことでのっぴきならない危機が咽喉元過ぎ去ってしまえば、好奇心だけが後に残った。家康も同じだったらしい。家康の頬が心持ち緩んでいるのは、四角四面の友に亡き主以外の存在が入り込む余地があったと判明し、嬉しかったからだろう。無論、三成は己の色恋沙汰について言及したわけではないが、まず間違いないと思われた。慶次は家康に目配せすると、三成との距離を縮めた。二人がかりで三成の艶話を根掘り葉掘り聞き出すためだった。
「貴様も恋をしているのか?」
予定を裏切り、真っ先に口を開いたのはかすがだった。周知のとおり、かすがは謙信への灼熱の恋に溺れる身である。それまでかすがは豊臣残党筆頭の三成を警戒して近付こうとすらしなかったが、恋愛沙汰には心惹かれるものがあるのだろう。
仁王立ちして見下ろして来るかすがを、三成が胡乱な眼で見上げた。不可解そうに寄せられた眉根が、何だこの女は、と三成の胸の内を語っていた。幸いなことに三成は、かつてはかすがが半兵衛に仕えるも袂を分かった事実を関知していないらしかった。
重圧すら漂わせて対峙する二人に、慶次はにんまりした。これは面白くなったと言わざるを得ない展開だった。
「恋だと…そのようなさもしい感情、私は持たない。」
「だったら、佐助は誰と貫通したのだ。貴様の主か。」
「…ッ!貴様、秀吉様を愚弄するか…!」
二人の間では日常茶飯事なのだろう。家康はさして慌てた風もなく、やにわ気色ばんだ三成を諌めた。
「まあまあ、待て、三成。かすがに他意はないのだ。わしも秀吉公が間男された噂など聞いた覚えがない。慶次にしてもそうだろう?」
「ああ、聞いたことないな。秀吉じゃないなら、誰の話なんだい?」
「愚問だ。私に決まっている。」
これにかすがが憤った。
「だが貴様は恋をしていないと明言したばかりではないか。」
「恋だといったつもりはない。」
三成の放った一言に、かすがの顔色が変わった。かすがは怒りに身を震わせながら、眼光鋭く三成を睥睨した。
「躯だけの関係だとでも言うつもりか…ふ、不埒な…恥を知れ!」
痛いところを突かれたのだろう。顔を曇らせた三成が、かすがを睨み返した。
「貴様に私の何がわかると言うのだ。」
それから、あられもない三成の告白が始まった。滔々と綴られる言葉はもはや演説に近かった。まだ強かに酔いが残っているらしく、常の三成であれば決して口にはしないような傾慕の情は、本人こそ強く否定していたが、紛れもない恋心だった。三成は手放しで意中の女を賛美した。一時、かの独眼竜が女だったという事実に場が騒然としたものの、それすらも掻き消すほどの意外な執心だった。
いくら酒精に耐性があるとはいえ、かすがも笊の謙信に付き合って酔っていたのだろう。強く心打たれ、人目もはばからず落涙するかすがが、三成の肩を抱いた。
「そうか、貴様も辛い思いをしたのだな…!」
「…貴様もか…。」
三成とかすがは互いの健闘を讃え、ひしと抱き合った。常は冷然ながら一度熱を上げると暴走する傾向にある三成とかすがは、案外馬が合うのかもしれなかった。家康はそんな二人を前に、呵々大笑して酒を呷っていた。親心だろう、目には光るものがあった。黙り込んで聞き入っていた慶次が口を開いたのは、そのときだった。
「気に入った!俺も一肌脱がせてもらうよ!そうと決まれば早い方が良い、あっちは雪に閉ざされちまうからね。明日にでも政宗のところに向かおう!」
「だが、私は政宗に会うつもりは…。」
「何だい。天下の凶王も本惚れした相手だけは怖いのかい。」
「貴様は独眼竜に会って釈明すべきだ。」
傍目にも気が進まぬ様子の三成を、かすがが熱心に掻き口説いた。同じく恋に焦がれる身のかすがには、誰よりも三成の苦渋が理解できるのだった。かすがの意見に家康が熱を入れて同調した。
「そうだぞ、三成!わしもかすがと同意見だ。せっかく生まれた絆…お前は政宗と語らうべきだ!」
天衣無縫に見えて、その実、策士な家康のことだ。関ヶ原で惜しくも三成に敗れた家康としては、三成の自由を尊びながらも、再び友人が生への執着を失わぬよう何かしら錨を施しておきたいに違いない。
「惚れたはれたに体面なんて気にしてちゃ負けだよ。ほら、あんたも男なら張った張った!丁半どっちが出てもあんたにとって無駄にはならないよ。」
慶次は笑いながら、未だ踏ん切りがつかないらしく仏頂面をしている三成の背中を叩いた。叱咤激励のつもりだった。
そのような経緯を慶次の口から聞き出した三成は、昨夜の自分への憤怒と羞恥に顔を白くした。戦国乱世にあって、戦利品である敵国のおなごの凌辱は珍しくなかった。しかし、戦人である身を誉れと捉えている三成が、女子供を軟禁しあまつさえ手篭めにしたなどと、末代までの恥である。そのくせ、政宗を想うているなどと、その勝手ぶりたるや浅ましいにも程があった。
三成は顔を俯かせたまま踵を返すと、足早にその場を後にした。訝った慶次が背後から問い質したが、三成は足を止めなかった。三成は口を滑らせた昨夜の己の浅はかさが憂えてならなかった。否、三成にとっては口を開く以前の問題だった。そもそも思いを馳せること自体が浅慮の表れだった。だのに、慶次の発言は見事に的を射ていた。その事実に、三成は激しく動揺した。
自室にとんぼ返りした三成は、唇を噛み締めまんじりともせずに部屋の片隅を見つめた。
「恋だと…そのようなさもしい感情、私は持たない。」
持たないはずだ。三成は震える唇で言い繕った。他人はおろか自分すらも騙しきれない短慮な詭弁だった。三成は小さく溜め息をこぼし、瞼を固く閉ざした。
「だが…、躯だけの不埒な関係で終わらせるつもりもない。」
今や、三成の頭には慶次の言葉が契機となって昨夜の応酬が蘇えりつつあった。自らが放った失言に胸を射られた思いだった。いつの間にか、ここ数カ月燻ぶっていた惑いは消失していた。脳裏には自然と政宗の姿を描いていた。腑に落ちた感情が三成の思考を占領し始めていた。


障子を開け放つと、闇夜に掠れそうな白月が浮かんでいた。耳震わすのは虫の音だろう。
政宗は片腕を組みながら、煙管を燻らせた。背後で繰り広げられるどんちゃん騒ぎに心底辟易していた。元来、賑賑しい酒盛りは嫌いではない。関ヶ原の残務整理も落ち着き、来る冬への備えも済み、暇を持て余していた時分である。常ならば、歓迎していたに違いない。だが、そこに下世話な艶事が加わるとなれば、話は別だ。
いつの間にか時は巡り、霜月になっていた。思い思いの色に染まっていた葉も散り散りになり、彩りを欠いていた。あと半月もすれば、例年通り、奥羽は雪に囲まれ閉ざされ、人々の往来も途絶えることだろう。奥羽の冬は厳しい。目に麗しく映ることも間々あるが、民草を死に至らしめるそれは天災でしかなかった。それは陸奥を住処にする銀の巫女いつきに諭されるまでもなく、国主である政宗が誰よりも承知していた。
冷たい夜気が踝を撫でた。重苦しい沈黙に耐えかねて、先に口を開いたのは政宗だった。政宗は背後の優男に一瞥投げかけた。
「…何の用だ?」
険のある眼差しだった。母譲りの美貌を怒りに強張らせ白くした政宗は、いつにも増して冷然と見えた。さながら、銀世界の女王といったところか。三成のせいで、順風だった人生が急にぐらついたのだ。それも致し方あるまい。
三成は酒気を帯びた眼差しで政宗を見つめた。

剣呑な空気

家康と慶次、幸村らが来る。酔っぱらっている。さっそく、慶次と三成は会談した模様。そこに家康と幸村もいたようだ。そして、三成がぽろりしたらしい。
「これが絆の力!」「祝宴はいつ挙げるんだい?」「政宗殿がおなごとは…し、しかし!某の想いは一つ!」
政宗はじと眼で酔っ払いたちを眺める。佐助の姿はない。自分がばらしたのだと誤解されて八つ当たりされては適わないと逃げたのだろう。三成も少し呑んできた様子。だからこそ、ぽろりしたのか。それとも、元々、隠す気もないのか。政宗は三成の袖を引き、外へ連れ出す。やんややんやと囃したてられる。激しく動揺している小十郎が政宗を引き止めようとするが、それを、慶次が止める。
「三成、絆だ!絆の力を忘れるな!」
家康の声援。
「ありゃどういうことだ」
政宗の詰問に、三成はたじろぎ、言葉を濁す。首を傾げる政宗。鈍感。
ともあれ、冬の間、三成が仙台に逗留することになる。

あくる夜、政宗は忍んで三成に会いに来る。政宗の手には銘酒。
呑み始める二人。
軍はどうしたのかという政宗。あっさり解散したという三成に絶句。
なぜ?豊臣秀吉の遺志を継ぐんじゃなかったのか?俺はてっきり…。
家康もずいぶん三成を引き止めていたようだった。
三成は言う。秀吉様の明日は、私でも家康でもなく、貴様が築くべきだ。
アンタ、変わったな。前は、触れなば切れそうなくらい精神が張り詰めてやがったのに。これで、アンタにも夢が出来りゃ文句なしなんだが。
驚嘆しながら政宗は、三成の頬に手を添えて、真正面から覗き込む。動揺する三成。政宗微笑む。
アンタ、良い面するようになったな。
そこで、政宗はふと気付く。なんでアンタ眼を逸らすんだよ。
「私は――、」
三成は何事か言いあぐねた後、
そこで何かに気づいたように口を閉ざし、三成。
「私の童貞を奪ったのはお前だ、政宗。」
政宗は閉口した。
「…そりゃあ、どちらかというと、俺の言い分だと思うんだが。」
三成から手を離そうとした政宗の手首を掴んで、三成が真剣な面持ちでいう。
「貴様は責任を取らなければならない。」
「私の目下の夢は、伊達政宗、貴様と婚姻を果たすことだ。」
眼を見開く政宗。しばらくしてから弾かれたようにくつくつ笑いだす。羞恥と憤怒に眦を染める三成。
「拒否は認めない。私はッ――。」
言い募る三成をキスで黙らせて政宗、こわくてきに嫣然と笑う。
「good spirit.交渉成立だ。アンタの夢、俺が責任もって叶えてやるよ。」
「せいぜい熱くさせろよ?」

癇の強さが悔やまれるが、まるで夜気を震わす月光のように貌は麗しい。
聡明で美しい籠の鳥、心満たさぬ冷笑の月影。これほど三成に相応しい者もいないだろう。

「考えてみれば、アンタとはKissすることもなかったな。」
わからなくていらっ。
「伊達政宗…私は貴様の異国語使用を許可しない。」
「ハッ、だったら実力で黙らせてみろよ。」
刀を手にする三成に、眼を丸くする政宗。
「oh…、アンタほど人の言葉を真に受けるやつも珍しいよな。違えよ。」
ちゅう。
「それで?Kissはお気に召さないか、Honey?」
「…特別に許可する。」
「そりゃ、ありがたい。」

結婚。



関ヶ原あと、没プロット(2)

関ヶ原の戦いは終わった。
「それで、なんでアンタがここにいる?」
政宗の問いかけに、三成が顔を曇らせた。その顔は、政宗の問いが解せない、と如実に表している。解せないのはこちらの方だ。政宗は溜め息を噛み殺し、煙管を突きつけた。
「アンタ、折角軍を起こしたのに、ありゃどうした?まさか、解散したなんてことはないんだろ?」
「愚問だ。知っているのならば問いかけるな。」
恥知らずにも平然と答える三成に、政宗は頬を引きつらせた。冬は戦の少ない季節だ。それもあって、軍を本拠地に残し、単身乗り込んで来たのかと思えば、眼前の男は容易に解散させたなどという。群雄割拠の時代、軍を起こせるだけで恵まれているにもかかわらず、それがどれだけ困難を極めることかも知らない三成は泰然とした態度だ。政宗は苦り切った声で、嫌味を垂れた。
「アンタには家康だっている。誤解は解けた。だったら、アンタが今なお俺に固執する理由はねえだろ? you see?」
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