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地獄の最下層に彼の根城はある。コキュートス。常に凍てつき、熱さえ感じさせるほどの絶対零度で命を奪う牢獄。あるいは、全てが死滅した場所と言った方が解りやすいだろうか。そこは、流れたばかりの血のような生温い闇に閉ざされた地獄でも、異質な場所である。一説では、神に逆らい全てに絶望した彼が、永劫の後悔にまどろむためだけに創られたのだとか。
馬鹿馬鹿しい噂だった。それが真実だとすれば、この私が足しげく通う理由にはならない。
まるで彗星のように降り立った私は、背中の光輝く翼を折り畳んだ。地獄のモノたちにとって、この光は強烈すぎる。太陽を直視するようなものだ。私は神に仕える身である。たとえ亡者や悪魔たち相手とはいえ、他者の目から光を奪うのは本意ではない。
「これは興味深いよ。ソフォクレスのオイディプスを読んだことはあるか?ああ、その顔は、読んだことはないが知識ならばある、というやつだな。まったく、これだから全知全能の神に仕える天使は嫌なんだ。」
「そう言わないでくれ。貴方だって、数千年遡れば天使だったじゃないか。それに、私は、そうやって外部から知識を得ることの方が面倒だと思う。主観も混じるだろう。」
「主体のないやつに言われたくはないな。お前たちと来たら、「我々は」「私たちは」。常に複数形じゃないか。さもなければ、「我らが神は」と来る。」
「エゴばかり肥大化して満足に生きることすら叶わない貴方たち悪魔にそこまで虚仮下ろされる理由はないと思うのだが。」
(中略)
「デウスエクスマキナか。確かに、あの、華々しく神が舞い降りて問題を一刀両断する演出は不条理かもしれないが、私はアイスキュロスの方が好きだな。ソフォクレスは文学として素晴らしいかもしれないが、奥が深すぎて人生を悲観したくなる。」
「貴方にしては珍しい意見だな。貴方はこの悪趣味な世界をもっと愉しんでいるのかとばかり思っていた。」
「馬鹿なことを言うな。無論、愉しんでいるさ。私は厭世がすぎて羽根を生やしたお前とは違うんだ。」
「そういう貴方は、翼を代償にした遊び場で何をしていることやら。どうせ碌でもない冒涜に耽っているのだろう。まだ、アレで遊んでいるのか?」
「飽かず遊ぶに決まっているさ。お前が一度棄てたモノをどうしようと私の勝手だろ。呪うなら、天から堕とした自分の勝手を呪うんだな。」
「まったくだ。前回来たときは歯も生え揃っていないようなヒトモドキだったように思うが。」
「この歯型を見るが良い。ちゃんと生え揃ってから、もう2千年になるかな。ああ、彼の息子が地上に降りたときだから、そんなものだろう。安心しろ。数千年前、お前が天使になるため無頓着に棄てた人間だった頃のエゴは、私が大事に囲ってやるさ。」
「それを聞いてしまうと、余計楽観視する気になれないが、貴方の気晴らしになるのであれば良いのではないか。」
「勿論、良いに決まっている。それにしても、ギリシャ神話は興味深いな。特定の神に気に入られ肩入れされ祝福を受けるほど、敵対する神に呪われ身を滅ぼすのだから、可笑しな話だ。我らが友人ヨブのように、試練の後にしかるべき報酬があるわけでもない。神の身にしてみれば、えこひいきの結果であって試練でも何でもないんだから、当然だ。やつら英雄の悲惨な末路を見てみろ。お前にも劣らない血塗れの道じゃないか。」
「だが、私の場合は、あくまで試練だった。」
「だとしたら悪趣味にもほどがあるが、まあ、お前がそう言い張るのなら、それで良いんじゃないかな?それに、そういう意味では、お前は私の犠牲者だな。あの頃の私は自分でも意外に思うくらい、お前のことを気に入っていたから。それに、破滅した、という表現は可笑しいか。むしろ、結果だけを見れば、身の誉れと受け取るべきだろうな。あくまで、お前たち天使からしてみればの話だが。それで、天使になった気分はどうだ?」
「なんの感慨もわかないが、この無感動こそを素晴らしいと言うべきなのだろう。人間だった頃はもう、不要な感情に振り回されていた印象しかないな。全てに飢餓して、辛くて堪らなかった覚えがある。だから、私は天使になれて幸福だ。」
「まったく、お前もつまらない存在に成り下がったものだ。この、全身が爛れそうなほど血がたぎる熱い感覚。お前にも思い出させてやりたいよ。だが、それも無理な話だ。肝心のお前が天にしがみついているのだからな。天使などのどこが良い?漫然たる空虚の結晶がやつらだ。血も涙もない空気になんて、頼まれたって戻りたくない。」
「そういう貴方の方こそ、奇特だと思うのだが。膨張し倦み続けるだけの自我を抱え、肉体に翻弄されて、楽しいものだろうか?私はそうは思わない。」
「また今回も意見は平行線で終わるようだな。」
「ああ、残念だが。」
「お前が昔のまま、肉体持ちの人間だったらと思うよ。」
「奇遇だな。私も貴方が清らかな天使ならばと思う。」
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